ストイコビッチの右腕が中国サッカーを警戒。「日本の脅威になる」

  • 井川洋一●取材・文 text by Igawa Yoichi

 設立当初とはまた違う苦労を味わっているようだが、彼はそれさえも楽しんでいるように見える。異国の人々のメンタリティを変えるのは、ものすごく困難なはずだ。それでも、物事は少しずつ変化しているという。

「当初、トップチームのパス回しの練習では、味方と協力して自分も生き残るのではなく、味方にひどいパスを出して『あっかんべー』みたいな感じでした(笑)。でも、うちのアカデミーの子たちはそんなこと絶対にしない」

 急激な経済発展を遂げた中国では今、「文明」の文字をよく見かける。つまり彼らは今、文化や慣習の面でも成長を果たそうとしているのだ。確かに数年前と比べると、街や公共の場はずいぶん清潔になっているし、他言語を話す人も増えている。

「先ほども話したように、中国人はサッカーでも『協力すること』が苦手だった。でもそこが変わってくれば、継続的に強くなっていくでしょう。先々を考えたら、日本が追いつかれる時がくるかもしれない」と喜熨斗は話す。

「中国には、清潔さや真面目さ、努力するところなど、日本のよさを認める人がたくさんいる。対して、日本人の中には中国のよさを認めようとしない人が多いように感じます。たとえば電車に乗るとき、日本人はきちっと並ぶけど、中国人は並ばずに我先にと車内へ入っていく。日本からすれば、並ぶのは"美徳"。でも逆に言えば、並んでいれば順番が回ってくる、年功序列みたいなものですよね。

中国人からすれば、それは"弱さ"に映るらしいんです。自分の権利を待っているのではなく、自分から奪い取りにいく。どちらがサッカーに向いているかは明白です。元来、中国人はグワっと前にいく力を持っていますから、彼らがその"さじ加減"を覚えたら本当の脅威になるかもしれない」

 両国のトップレベルの事情を肌身で知る彼は、最終的には今の経験を母国に還元したいと考えている。

「僕はここに来て中国人を指導していますけど、先々には日本のためになると思っている。やっぱり最終的には監督になりたいので、それが実現した時にここでの経験を生かしたい」

 インタビューの翌日に練習場を訪れると、1月にプレミアリーグのトッテナムから加入したムサ・デンベレ(ベルギー)がいたため、日本人コーチの印象を尋ねた。すると31歳のベルギー代表MFは、「彼はきちんとした英語を話すし、欧州の練習法も学んでいるから、すごく助かっているよ。そのトレーニングやマネジメントは、僕が過去に所属した欧州のクラブのものと変わらない」と答えてくれた。

 アジアの上位戦線のレベル差は確実に狭まっている。地域の盟主の座を失いつつある日本に、特別な経験をしている彼の力が必要になる時は、きっとやってくるだろう。

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