たった1年で12倍以上の価値に。
冨安健洋の株が欧州で上昇中だ

  • 中田徹●取材・文 text by Nakata Toru
  • photo by AFLO

 シャルルロワ戦の冨安は、右サイドのライン際を駆け上がりながら攻撃に絡んでいた。地元紙『ヘット・べラング・ファン・リンブルフ』は冨安に採点7をつけ、「常にフットボールをすることで局面を打開しようとした」と評した。相手のプレッシングを受けても安易なクリアに逃げず、確実にマークを剥がし、時にはドリブルも交え、しっかりフリーの味方を見つけてボールをつないだところが評価されたのだ。

 3月2日に対戦したクラブ・ブルージュには、高さ、スピード、フィジカル、テクニック、得点力の揃ったウェズリーというブラジル人FWがいる。試合前、ブレイス監督は全国紙でこう語っていた。

「トミがもっと上に行こうとするのなら、ウェズリーとの対戦は、今後の彼を占うものになる」

 14分、冨安とウェズリーが中盤で浮き球を競り合った。このデュエルに勝ったのは冨安だったが、レフェリーは笛を吹いてクラブ・ブルージュにFKが与えられた。

 このシーンについて、冨安はこう振り返る。「ファウルにはなったが、僕の感覚としては悪くなかった。彼に主導権を渡さないように、前に入ったり、身体をぶつけたり、いろいろな駆け引きをイメージしていましたから」。

 67分、ウェズリーがトラップしようとした瞬間、冨安は身体を入れてボールを奪い取り、そのまま推進力を生かして攻撃参加を見せた。そのシーンは、この日の冨安とウェズリーとのマッチアップを代表するものだった。

 ただ、冨安が見ていたのはウェズリーだけではない。シント・トロイデンは5-3-1-1のフォーメーションで、8人が守備に比重を置くシステムを採用していた。クラブ・ブルージュのフォーメーションと噛み合わせると、どうしてもシント・トロイデンは相手CBのドリブルインを許すことになる。

 アヤックス出身のCB(彼らはドリブルインがDNAに組み込まれている)ステファノ・デンスウィルが軽々とシント・トロイデン陣内まで上がってきた時、冨安は味方を動かすのか、それとも自分が前に出るのか、難しい判断を何度も繰り返さなければならなかった。

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