たった1年で12倍以上の価値に。冨安健洋の株が欧州で上昇中だ

  • 中田徹●取材・文 text by Nakata Toru
  • photo by AFLO

 冨安健洋がシント・トロイデンに移籍したのは、今から1年あまり前のことだった。「U-20日本代表のCB」という肩書こそあったが、当時シント・トロイデンのサポーターは「2部リーグ(アビスパ福岡)でプレーする19歳のCBに、80万ユーロ(約1億円)も払う価値があるのか」と懐疑的だったという。

 しかし、アジアカップの開催時期にチームを離脱した時期をのぞけば、今季開幕からずっとレギュラーとして試合に出続けている。その冨安には今や、1000万ユーロ(約12億7000万円)の価値があると言われている。

冨安健洋は安定した守備力を武器にシント・トロインデンで定位置を確保している冨安健洋は安定した守備力を武器にシント・トロインデンで定位置を確保している デビューしたころの冨安は、相手をしっかり零封しても、「自分のプレーはまだまだです」と背中を丸めながら答えていた。

 私はマーク・ブレイス監督に、冨安の評価を訊いてみた。すると、「トミはベルギーで最高のタレントだ」と言い切った。驚く私に、指揮官は重ねて繰り返した。「間違いない。トミはベルギーで最高のタレントなんだよ」。

 日本代表のレギュラーになった今、試合後の冨安はさすがにもう背中を丸めることはなく、堂々と正面を見据えてインタビューに答えるようになった。それでも彼は、「僕のパスは改善が必要です」などと語り、反省と課題を繰り返している。

 地に足のついた青年――。それが、彼に対する私の印象である。

 2月24日、シント・トロイデンが3-1でシャルルロワを下した後、私はブレイス監督のもとに行った。そして、「半年前にあなたは、私に『トミはベルギーで最大のタレントだ』と言いました。あの時の冨安選手は、ベルギーではまだ何者でもなかった頃です。今季の冨安選手の成長を見ると、あなたが『冨安の発見者』だと感じます」と声をかけた。指揮官はニンマリと笑って、こう言った。

「私が発見したんじゃない。トミは、自分自身で成長していったんだ。今日のトミはパーフェクトじゃなかった。もう少し(右サイドのジョルダン・)ボタカとコミュニケーションを取ることができればよかった。だけど、いいパフォーマンスをしたよ。右サイドからの仕掛けを見たかい?」

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