トレーナーも驚く長谷部誠の試合前のルーティン。「プロの鑑」 (3ページ目)

  • 鈴木達朗●取材・文 text by Suzuki Tatsuro
  • photo by Getty Images

「僕の役割は、ケガをしていない選手や試合に出場しそうな選手のケガの予防、慢性的に痛みがある箇所を悪化させず、回復に向かうようにすることです。なかには、『体を軽くして試合に臨みたい』、『動きがよくなるような感覚を持ちたい』、『試合前にしっかり寝られるようにしたい』と要望してくる選手もいますね。

 体に関する不安がストレスになって、それが試合に出てしまうこともありますから、体のケアはメンタル面の安定にもつながっています。カウンセラーのようなアプローチではなく、僕は治療やケアのやり方、時間のかけ方で(選手の体に関する不安がなくなるように)意識しています」

 選手のことをより近くで診ている黒川は、国や地域による特徴は「身体面よりも性格に出る」と話す。海外の選手は自分のことをメインに考えて"我を通す"ことが多いのに対し、日本人選手は周囲のことを考え、チーム全体を見て動けることが特徴だという。「どちらにも良し悪しがありますけどね」とつけ加えたが、日本人選手の真面目さはブンデスリーガでも際立っているようだ。

 これまで黒川は、かつてフランクフルトでプレーしていた乾貴士(アラベス)や鎌田大地(シント=トロイデン)のケアも行なってきたが、なかでも長谷部の真面目さ、試合に向けた準備には驚かされるという。

「彼がすごいのは、他によっぽど重要なことがない限り、ルーティンを変えないこと。普段の生活や体のケアの"リズム"を大切にしていて、試合の前後に一定の頻度で治療を受けることを続けています。膝のケアを重点的にやらなければならない時もありますが、自分にとって必要なことをよく把握していますから、こちらから細かく提案をする必要はありません。僕が心配することはないですね」

 この発言からも、監督やチームメイトが長谷部のことを"プロフェッショナルの鑑"と評価するのもうなずける。長谷部に限らず、フランクフルトで活躍するベテランたちに共通している点として、黒川は「自分で自分の体のことをよくわかっていること」を挙げる。

「これ以上やると今日はまずい」という限界値を理解している選手は、決して無理をしない。対処法も心得ていて、治療する側に伝える情報も明確なため、メディカルトレーナーも対話がしやすいという。"自分自身の身体に対する関心や感度の高さ"が、現役を長く続けられる条件なのだ。

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