欧州CLマニアック鼎談。達人たちが注目したのは物議をかもしたVAR (2ページ目)

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倉敷 チャンピオンズリーグはラウンド16からVARが採用されましたが、初日の2試合ではVARを使う場面が一度もなかったので、UEFAが審判団の背中を押したのではないでしょうか(笑)。結果的にオフサイドの判定になってノーゴールになったわけですが、ライン上にいたようにも見える。ホークアイで判定したわけではないので、そうするとグレイゾーンは審判の判断次第になりそうです。

中山 あのVAR判定は物議を醸しましたね。それもあってか、珍しくUEFAが試合翌日に正式な説明をしました。彼らの見解は、あの場面でオフサイドポジションにいたタディッチがクルトワをブロックした、つまりプレーに影響を与えたからオフサイドだったというものでした。主催者(UEFA)がこの手の説明をすること自体、稀な事例です。おそらく彼らも、一般のファンにはわかりにくいシーンだったと感じたのでしょう。

倉敷 でも、ゴールキーパーのプレーに関与したという解釈については、今後いよいよ難しくなると思いませんか?

小澤 たしかにそうですね。いくらVARを導入しても、それについては主審の解釈の問題になってしまうので、VARというテクノロジーとは別の話です。この手の判定は、逆にVARの存在によって難しくなってしまったと思います。しかも、あのシーンでクルトワは何もアピールしていませんでした。僕はこの試合をスペイン語のラジオ放送を聞きながら見ていたのですが、ラジオ中継でも識者たちが「これはオフサイドにはならないのではないか?」という話をしていました。

倉敷 これはルールとは離れた感情論ですが、キックオフ前には飛行機事故で他界したアルゼンチン人選手のエミリアーノ・サラへ黙祷を捧げるセレモニーがありました。選手たちは彼のためにもよいプレーを見せて、生きている喜びを観客と共有しながら、この試合も、限りある人生も、楽しもうというメッセージを含んだ試合でした。

 サッカーは一瞬のきらめきが交差していく競技です。サラと同じアルゼンチン人のタグリアフィコがネットを揺らした時、何かのメッセージを受け取ったファンも多かったのではないでしょうか。世界中のサッカーファンの胸に何かが去来した瞬間だったはずなんです。しかし、それをどちらとも解釈できるシーンでフイにしてしまった。そこを残念に思ってしまうんですね。

中山 そうですよね。VARがなかったら、そういった曖昧なシーンは主審の判断によってよい方向に持っていくことができましたが、現在は最終的にVARというフィルターを通さなければいけないという方向になってしまった。そのことで、倉敷さんがおっしゃったようなサッカーの大切な部分が削ぎ落とされてしまった感は否めません。エンターテインメント性、ストーリー性がなくなってしまったら、サッカーの魅力も半減してしまいますから。

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