南米目線でサッカーを見ると、日本では想像できないことの連続だ (3ページ目)

  • photo by Nakashima Daisuke

倉敷 歪んだ愛情の結果として、ブエノスアイレス市の法務防衛大臣が警備体制に不備があった責任を取り辞職しています。その時のコンメボル(南米サッカー連盟)のドミンゲス会長とリーベルのドノフリオ会長の対応も最悪なもので、すでにモニュメンタルに入場していたファンは、度重なる時間変更の告知のあげくに6時間以上も待たされました。彼らも怒り心頭だったでしょうね。

 いや、それほどでもなくて、仕方ないという感じだったようです。おそらく日本であれば大問題になったと思いますけど、そこについては、彼らはそれくらいサッカーが好きなんだとしか伝えられない部分ではありますが。

倉敷 コンメボルの対応はどう思われましたか? ケガを負ったボカのキャプテン、パブロ・ペレスやゴンサロ・ラマルドが病院に運ばれ、ボカ側はプレーできるコンディションにないと繰り返し説明して延期を求めました。リーベルもガジャルド監督も延期に同意したようですが、それでもコンメボルが「ケガは表面的なものでプレーに影響なし」と声明を発表し、試合を当日に行なおうとしたことに驚いたテベスは「試合ができる状態ではないのに強制されている」と訴えました。

亘 とにかく試合をやってくれ、ということですね(笑)。その後にクラブワールドカップがあるので、決勝で勝敗を決めなければいけない期日が迫っていたことが理由のひとつだと思います。それと、防衛大臣の件については、G20を控えてセキュリティ強化が求められていたはずなのに、結局、恥ずかしいニュースを世界に流すことになってしまった。その責任は重いという判断だと思います。

倉敷 モニュメンタルで試合を待っていたお客さんの話も聞きたいです。ここが南米らしいのですが、彼らにとっては"チケットを買った"という重要性があるわけですね。だから何時間待たされようがチケットを持っているのだからここに残ります、という。ここが日本人には理解できないメンタリティですよね。

 ですよね。日本人なら「これで家に帰れなかったら、帰りの電車賃やホテル代を出してもらえるんだろうね」といった保証の部分を考えると思うんです。でも、南米の人は違います。今乗れる船に乗る。スタジアムに入ったもん勝ちという発想です。

 試合がマドリード開催になってチケットが1,300ドル必要になるなら、一回しかない人生ですから、それを見たければなんとしてもお金をかき集めてチケットを買う。もしかしたらそのチケットが偽物かもしれないし、試合が見られないかもしれないけど、とにかくスタジアムに入ることを目指すんです。で、スタジアムに無事入っても試合が始まらなかったら、また次にどうするかそこで考える。とにかく、南米の人はスパスパとぶつ切りで物を考える傾向があるんですよね。

倉敷 南米の監督のメンタリティも合わせて教えて下さい。リーベルのマルセロ・ガジャルド監督は、セミファイナルの第1戦でサスペンションの処分を受けていたにも関わらず、第2戦もロッカールームに現れ、選手たちに指示を与えたことで処分が重くなりました。決勝はコーチのマティアス・ビスカイが指揮を執る事になったわけですが、このケースはよくあることですか?

 けっしてよいことではないですが、よくあります(笑)。それとは少し違う例ですが、かつてボカがトヨタカップに出場した年のリベルタドーレス決勝で、カルロス・ビアンチ監督がベンチ入りできなかったことがありました。あのとき、観客席で試合を見ていたビアンチ監督に、相手サポーターが石か何かを投げて試合中に血だらけになったことがあったんです。最終的にボカがPK戦で勝利したわけですが、もしあのときにボカが負けていたら没収試合になったかというと、おそらくならなかったと思うんです。

 でも、たとえば浦和レッズと川崎フロンターレの試合で、川崎の鬼木達監督が同じような目に遭ったとして、その試合はどうなるのでしょう?

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