南米目線でサッカーを見ると、日本では想像できないことの連続だ (2ページ目)

  • photo by Nakashima Daisuke

小澤 クラブとしては、扱いが非常に難しいサポーターということですね。

倉敷 バーラブラバがチケットの違法販売で稼いだ売上金を没収されたことに腹をたて、クラブのフロントに対し「その金を返さないのならボカのバスを襲う。リーベルが没収試合になっても知らないぞ」と脅しをかけ、そして実行した。という記事を見かけましたが本当ですか?

 そうですねえ。なかなか伝えることが難しい部分ではあるのですが、これまでクラブにはサッカーを取り巻くさまざまなビジネスで稼いだお金を活動費にして応援に来てくれているグループもいました。クラブもその行為を認めていました。でも、やはり現代でそれは許される習慣ではないということで、彼らをある時期から締め出そうとしたんです。

 ところが、いきなり強硬な姿勢で締め出したら暴徒化するだけなので、理解してもらいながら手を切ろうとした。その結果、彼らの何人かは現在でもグッズを販売していたり、何かしらクラブから利権を与えられて商売をしたりしているという現実が今でも残っています。

 そういう意味では、ほどよいバランスで共存していると言った方がいいかもしれません。日本では、サポーターたちはみんな自分たちでお金を稼いで、休みを使って応援に来てくれますが、そういった日本人の常識とは異なる文化みたいなものが、アルゼンチンサッカーの歴史の一部として残っているんですよね。

中山 バーラブラバの存在は十数年前によく耳にして、彼らは政治家とも太いパイプでつながっていると聞きました。政治家は選挙の時に票がほしいので、亘さんが先ほどおっしゃったように、彼らは邪魔者でもあり、選挙時には心強い支持者になってくれる。そういう関係にあるので、政治の力で徹底排除することができないという背景があるそうです。現在のマウリシオ・マクリ大統領も以前はボカの会長だったように、アルゼンチンのサッカークラブの会長はある意味で政治家みたいな側面もあるので、問題がより複雑化しているのでしょうね。

 それと、今回の事件については、リーベルのバーラブラバたちが単にボカの選手たちを傷つけようとしたわけじゃなくて、その背景にはクラブへの愛情の裏返しみたいな面があったと思うんです。つまり、かつてリーベルが2部に降格してしまったとき、彼らがクラブを支え続けてくれた部分があって、だから「2部に落ちたときに俺たちが助けてやったのに、最近はずいぶん俺たちをないがしろにしてくれているな。それなら暴れるよ」というプレッシャーをクラブ側にかけていたという話も耳にしています。

 良くも悪くも、それくらいクラブに大きな影響を与えているのが彼らなんですね。アルゼンチンではサポーターのことを「インチャ」と呼びますが、インチャという言葉にはいろいろな意味が含まれていて、ひとつは「膨らむ」。これはスタンドが膨らむようなエネルギーで応援する場面を想像してもらえればわかりやすいと思います。もうひとつは、「意地悪な」とか「邪魔な」という意味もあって、それが今回の一件で表面化した部分だと思います。でも、だからこそ膨らむようにチームを盛り立ててくれて、相手チームが戦いにくいように邪魔もしてくれる「12番目の選手」ということになるわけです。

2 / 5

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る