元JリーグMVPエメルソンが引退。問題児の半生は波乱万丈すぎる (3ページ目)

  • 沢田啓明●文 Sawada Hiroaki photo by Getty Images

 しかし、この不祥事の後、彼はキャリアのピークを迎える。サンパウロの名門コリンチャンスへ移籍すると、すぐにレギュラーポジションを獲得。2012年のコパ・リベルタドーレスで貴重なゴールを決め、チームに貢献した。

 決勝でアルゼンチンの強豪ボカ・ジュニアーズと敵地で対戦する前日、「(サポーターの常軌を逸した応援で知られる)ボンボネーラ・スタジアムでプレーすることにプレッシャーを感じないか」と聞かれたエメルソンは「俺にとってプレッシャーとは、リオの貧民街で麻薬密売業者どうしの抗争から銃撃戦になり、流れ弾に当たって死ぬのに怯えながら眠れない夜を過ごすことさ。敵地でボカと対戦するのは楽しみでしかない」と笑った。

 そして、ホームでの第2レグでチームの全得点となる2ゴールを決め、クラブ創立以来初の南米王者のタイトルを獲得する立役者となった。クラブ史に永遠に残る存在となったのである。さらに、クラブW杯でも決勝で欧州王者のチェルシーを破って世界の頂点を極めた。

 2014年以降はボタフォゴ、フラメンゴなどでプレーした後、今年初めにコリンチャンスへ復帰。昨年末から「コーチング」(一種のセラピー)を受けており、以前のような素行上の問題はすっかり影を潜めた。クラブ会長から請われて、来年以降はクラブのスタッフとして働くことが内定している。

 波乱万丈のキャリアを刻み、数々の問題行動でも話題を集めたエメルソン。今後は、分別ある大人としてこれまでとは異なる人生を歩むのか、あるいはやはりやんちゃなままなのか。これほど予測がつかない男も珍しい。

ともあれ、エメルソンが21年もの長きにわたって極めて幸せなフットボール人生を送ったのは間違いない。


3 / 3

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る