ミランの新オーナー、中国人富豪の次は「ハゲタカファンド」? (3ページ目)

  • ジェームス・モンタギュー●取材・文 text by James Montague 井川洋一●訳 translation by Yoichi Igawa

 彼らはアルゼンチン海軍の船舶がガーナに停泊していた際、押収を試みたほどだ。当時のクリスティーナ・フェルナンデス・デ・キルチネル大統領は、移動に使用する専用ジェット機が押収される可能性を危惧し、民間のフライトを使用していた。

 結局、訴訟は2014年にNML側の勝利で終結。アルゼンチン政府は債権者との交渉を続けたものの和解には至らず、期限までに債務の支払いは行なわれなかった。同国はアメリカ連邦地裁の命令によって海外での資金調達の道を封じられ、NMLら債権者は他国でも同様の訴訟を起こすなど、標的にされた国の経済は悪化の一途を辿ることになる。

 そんな中、2015年末にアルゼンチンに新たな大統領が就任すると、事態を収束させるためにEMCに有利な契約が結ばれた。未収利息を含めた約50億ドルが「ハゲタカファンド」──アルゼンチンでシンガーたちはそう呼ばれている──たちに支払われることになったのである。EMCはその半分、約25億ドルを懐に収めている。

 当然ながら、このような手法は多くの政治家や貧困撲滅を願う活動家から厳しく非難された。それらの巨額のカネはシンガーのような人に渡るべきではなく、恵まれない当該国の医療や教育、インフラの整備に使われるべきだったと。

 そうしたハゲタカファンドに対し、イギリスのゴードン・ブラウン元首相は「倫理的に許しがたい」と発言し、国連は「本来であれば貧困改善や医療、教育に使われるべき公的資金が疑わしいところへ流用されている」と述べた。またEMCが起こした種類の訴訟は、イギリスやベルギーなどでは禁止されている。

 EMCはそのようにして、うんざりするほどの富を得た。では、ミランの行く末はどうなるのか?

 シンガーはアーセナル好きのサッカーファンだが、おそらく、彼らがフロントを務める期間はそう長くないだろう。現在、ミランはEMCのやり方で運営されており、利益の最大化に長けたビジネスリーダーが要職に就いている。たとえば、ロスチャイルド投資銀行の元副会長であるパオロ・スカローニが暫定CEOに着任したように。

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