ミランの新オーナー、中国人富豪の次は「ハゲタカファンド」? (2ページ目)

  • ジェームス・モンタギュー●取材・文 text by James Montague 井川洋一●訳 translation by Yoichi Igawa

 ニュージャージーのユダヤ人一家に生まれた元弁護士のシンガーは、アメリカ共和党の最大の寄付者のひとりで、1%の超富裕層の支持者として知られる。巨額の利益を上げるアクティビスト投資家(企業に圧力をかける株主)であり、破綻しそうな国家や世界の貧困層を食い物にする「ハゲタカ投資家」とも評される。そうした手法は「不道徳なもの」と見なされることが多い。

 シンガーは1977年に、友人や知り合いのビジネスマンから集めた100万ドルの資金を元手にEMCを創設。財政難に苦しむ諸企業の株を大量に取得し、侵略的に経営権を握り、強引な再建計画に基づいて企業価値を回復させては売却し、投資家や株主に最大限の利益をもたらした。

 多くの場合、そのプロセスには数多の解雇者や大幅な年金の削減が含まれている。オリバー・ストーン監督の映画『ウォール街』でマイケル・ダグラス扮する主人公が述べた有名なスピーチ、「強欲は善なり」を地でいく人物と言える。

 シンガーはそうしたアプローチで、自身と彼の投資家に莫大な利益を計上した。2018年初頭の記録によると、EMCの企業価値は390億ドルで、約400人を雇用している。シンガーの個人資産は30億ドルと見られているが、おそらく実際はもっと多いはずだ。

 それらの成功の陰で、エリオット社はその無慈悲で攻撃的な手法を非難されてきた。もっとも物議を醸したのは、政府債務の買収である。標的は深刻な財政状態にあったペルーやコンゴ共和国、そしてアルゼンチンだった。

 2001年暮れにアルゼンチンがおよそ1300億ドルの債務不履行(デフォルト)に陥ると、同国の通貨は急下落し、国民の預金は凍結され、全体の約6割もの人々が貧困に喘ぐようになった。そんななか、アルゼンチンの債権者の9割超が国債の原価の3分の1を国から返済させることで合意したが、シンガーたちは納得しなかった。

 取り決めが合意される前に、EMCの子会社NMLキャピタルの主導により、少数の投資家が不履行債務の一部を額面の数%で取得していた。そしてNMLは、アメリカで訴訟を起こして全額返済(利息を含めて13億3000万ドル)を求めた。

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