ムバッペは「W杯優勝の呪い」を
乗り越える。「大事なのは次の試合だ」

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

「(デシャンは)監督が求め、期待していたことをチームがやらなかったときに、監督がすべきことをやっただけだ」

 ムバッペがデシャンの批判を受け流すことができたのは、高いレベルのプロ選手のような生活を14歳のときから送ってきたからだ。

 彼の父はパリの貧しい郊外地区ボンディのアマチュアクラブで、ユースチームのコーチとして雇われていた。父はムバッペに「いちばん大事なのは次の試合だ」と教え続けてきた。だからこそ彼は、19歳にして、世界王者になるための準備が誰よりもできていた。

 ワールドカップ決勝の夜にムバッペは、優勝できて「すごくよかった」と語った。しかし、それも彼のキャリアのなかでは、ステージがひとつ上がっただけのことだ。

 TF1のドキュメンタリーの中でムバッペは、自分の人生の「流れ」はふつうの人とは違うと語っている。あまりに成長が速いから、半年ごと、1年ごとに次のステージに上がっているというのだ。

「ワールドカップの優勝も、次のステージに行けただけのこと」と、彼は言った。

「トップレベルのフットボールは、自己満足だけではだめなんだ。とにかく、勝利、勝利、勝利さ。僕が世界王者になったことなんて、すぐに忘れられる。自分はPSGのキリアン・ムバッペであり、チームに自分が必要であることを証明しないといけない。毎年、ゼロからのスタートだよ。それまで何も成し遂げていなかったみたいに」

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