ネイマール獲得、カタールW杯招致の陰で...「今そこにある疑惑」 (3ページ目)

  • ジェームス・モンターギュ●取材・文 text by James Montague 井川洋一●訳 translation by Yoichi Igawa

 現在、フランスでは腐敗撲滅を掲げる団体が、サルコジ元大統領とカタールの関係を調査している。そのなかには、当時結ばれた多くの契約も含まれている(サルコジはさらに、リビアの故ガダフィ大佐との関係についても、フランス警察から疑いを持たれている)。

 また、スイスやアメリカでは、FIFAとその周辺の汚職事件に関する多くの調査が引き続き行なわれている。2018年、2022年のW杯開催権と、それに付随するテレビ放映権やマーケティング契約にも、サーチライトが当てられているのだ。もちろんカタールは一貫して、「間違ったことはしていない」と主張しているけれども。

 ただし、カタールにとって、もっとも厄介な悩みは他にある。2017年6月、カタールは近隣諸国との国交が断絶されたのだ。伝統的なライバル国であるサウジアラビアとUAEの主導によって。名目上の理由は、「カタールがテロリズムを支援しているから」とされているが、おそらく本当の理由は、W杯招致などカタールの成功に対する妬みや、近隣諸国に不都合な報道をするアル・ジャジーラの存在にありそうだ。

 サウジアラビア、UAE、エジプト、バーレーンの連合は、カタールに対して13の要求を提示している。当初、そのなかに2022年W杯に関するものはなかったが、最近になってUAEのアンワル・ガルガシュ外相が「2022年W杯を開催するカタールは、過激な思想やテロリズムの支援を放棄すべきだ」と言及し、その後こうつけ加えている。

「2022年W杯がテロリストや過激派の支援による悪評に汚されてはならない。カタールの方針は精査されるべきだ」

 そんな四面楚歌の状況にも、カタールは屈していない。近年の天然ガスの高騰により約3400億ドル(約38兆5000億円)の余剰金を得た彼らは、2017年の夏にバルセロナからネイマールを、モナコからキリアン・ムバッペを獲得した(ムバッペの最初の1シーズンはローンで、今夏に正式契約)。

 カタールは巨額を投じてネイマールやムバッペを獲得し、世界の視線をそらそうとしたようだが、その効果のほどは定かではない。スイスの法務省は、W杯のテレビ放映権をbeINスポーツが手にするために、アル・ケライフィが当時のFIFA事務局長であるジェローム・バルクに"袖の下"を渡した容疑で調査していることを発表。むろん、アル・ケライフィとbeINスポーツ側は断固否定している。

 この調査のニュースは当然、カタールのW杯開催に反対する者や団体、そして国交を断った周辺諸国によって、世界に拡散された。カタールはかくもさまざまな問題を抱えている。世界でもっとも高額な選手がどれほどゴールを決めたとしても、それらの解決までには至らないだろう。

■著者プロフィール■
ジェームス・モンターギュ

1979年生まれ。フットボール、政治、文化について精力的に取材と執筆を続けるイギリス人ジャーナリスト。米『ニューヨーク・タイムズ』紙、英『ワールドサッカー』誌、米『ブリーチャー・リポート』などに寄稿する。2015年に上梓した2冊目の著作『Thirty One Nil: On the Road With Football's Outsiders』は、同年のクロス・ブリティッシュ・スポーツブックイヤーで最優秀フットボールブック賞に選ばれた。そして2017年8月に『The Billionaires Club: The Unstoppable Rise of Football's Super-Rich Owners』を出版。日本語版(『億万長者サッカークラブ サッカー界を支配する狂気のマネーゲーム』田邊雅之訳 カンゼン)は今年4月にリリースされた。

(つづく)

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