マンCを買収した資産100兆円のアブダビ王族。その裏にある国家戦略 (3ページ目)

  • ジェームス・モンターギュ●取材・文 text by James Montague 井川洋一●訳 translation by Yoichi Igawa

 2000年代に入ってから、UAEは「ビジネスや休暇に最適な、オープンで自由な国」というイメージを世界に定着させようとしていた。しかし実情は大きく異なる。

 UAEには民主主義がなく、言論の自由も抑圧され、国外からの労働者を維持するため"カファラ"システム(中東各国が移民を募るため古くから利用するスポンサー制度で、人権団体から「不法労働の温床」と指摘されている。カタールでは2016年に廃止)を使用している。同国の住民の約9割が外国籍(主にインドやパキスタン、バングラデシュ人など)で、その多くは建設現場の労働者や運転手、メイドとして低賃金の劣悪な環境で働いている。

 長く放置されていた中東の外国籍労働者問題は、カタールが2022年W杯を開催することになり、ようやく耳目が集まるようになった。

 活動家や人権組織によると、近隣のUAEにはその問題がより大きく蔓延しているという。アメリカに基盤を置く非営利の国際人権組織、ヒューマン・ライツ・ウォッチは「労働者は強制労働と同じ条件にうまく組み込まれている」と、移民労働者の置かれた状況に関するレポートに記した。

 ともあれ、シェイク・マンスールのマンチェスター・シティ買収はとてつもなく大きなものへと変容した。シティ・フットボール・グループ(CFG)は世界中に確かな刻印を残し始めている。

 大なり小なりCFGが所有権を握るクラブは、ニューヨーク・シティFC(アメリカ)、メルボルン・シティFC(オーストラリア)、アトレティコ・トルケ(ウルグアイ)、横浜F・マリノス(日本)、ジローナ(スペイン)。また、2015年には中国のメディア投資ファンドに13%の株式を売却した。すると、中国の習近平国家主席がマンチェスター・シティのトレーニング・コンプレックスを訪れ、セルヒオ・アグエロ、デイビッド・キャメロン英首相(当時)と一緒にセルフィーに収まっている。

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