W杯で活躍した選手を獲得したけれど...ビッグクラブの失敗の数々 (3ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 ワールドカップは、選手がどこまでやれるかを示す場にはなるのかもしれないが、そこに大きな意味はない。大切なのは、1シーズンを通じて毎週の試合で見せるパフォーマンスだからだ。期間が短く、一発勝負の要素が強い大会では、その点はわからない。
 
 ガーナのFWアサモア・ギャンが2010年のワールドカップ南アフリカ大会で活躍した後、サンダーランドはクラブ史上最高額となる1300万ポンド(当時のレートで約17億5000万円)の移籍金で彼を獲得した。しかし1年後には、UAE(アラブ首長国連邦)のアル・アインに放出した。

 ギャンはクアドラードと同じく、クラブよりも代表でいいプレーをするタイプなのだろう。そもそもクラブの毎週の試合に、代表でのプレーに向けるほどの関心を持たない選手もいる(ルーマニアのスーパースターだったゲオルゲ・ハジは、まさにその例だった)。

 アクセル・ヴィツェルのような優れた選手でも、クラブでのプレーをほとんど重要視していない。ヴィツェルはビッグクラブでプレーしたことがないまま、27歳で中国リーグに移籍してしまったが、今もベルギー代表には欠かせない。2016年までベルギー代表監督を務めたマルク・ウィルモッツに言わせれば、「メンバー表に最初に名前を書き込む選手」だという。

 それでも4年前まで、メジャーな大会後の移籍は、まだ大きなイベントだった。

 ワールドカップ・ブラジル大会が始まるときに、メキシコ代表GKのギジェルモ・オチョアを欲しがるクラブはなかったはずだ。オチョアは、フランス1部リーグのアジャクシオでのシーズンを最下位で終えたばかり。メキシコ代表でも、ワールドカップ前の強化試合では冴えないパフォーマンスが続いた。メキシコの新聞がファンを対象に行なった調査では、代表の正GKにはオチョアのライバルであるヘスス・コロナを推す声が圧倒的に多かった。

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