W杯で活躍した選手を獲得したけれど...ビッグクラブの失敗の数々 (2ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 グラハムはドイツ戦でのたった1度のゴールから、イェンセンを愚かなほどに過大評価した。メジャーな大会は、選手を評価するサンプルとしては小さい。しかし、ふだんの試合より重要に思えるから、クラブはそこに深い意味を見出しがちだ。

 アレックス・ファーガソンでさえ、この罠(わな)にはまった。マンチェスター・ユナイテッドの監督を28年にわたって務めた彼は、勇退した後にこう書いている。

「ある大会で活躍した選手をすぐに獲得することに、私はつねに慎重だった。だが1996年の欧州選手権の後、私もそれをやってしまった。ジョルディ・クライフとカレル・ポボルスキーを獲得したのだ。どちらも欧州選手権ではすばらしいプレーを見せたが、彼らの国がその夏に得ただけのものを、私が得ることはなかった。(中略)ときに選手たちはワールドカップや欧州選手権に照準を合わせて準備するので、大会後には息切れしてしまうことがある」

 実際、選手を買うのに最悪のタイミングは、メジャーな大会で活躍した直後だ。あらゆるクラブが彼のすばらしいプレーを見ているから、市場価値は高騰している。しかし、選手は大会を終えたばかりで疲れているし、成功したことで満足してしまっている。

 それに、ひとつの大会で行なわれる試合は、高い買い物を決断するための材料としては少なすぎる。今回のロシアでのワールドカップだけを見れば、コロンビアのフアン・クアドラードはリオネル・メッシよりうまいと思っても無理はない。

 周りとの関係も意味を持つ。ベルギーのナセル・シャドリは、ロシア大会でのブラジルを破った試合で輝きを放ったが、それは彼が慣れ親しんだすばらしいベルギー代表の一員として、だ。イングランドの中堅クラス以上のクラブでうまくやれるような、ワールドクラスの選手だとは言いがたい。

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