2003年、アブラモビッチがチェルシーを買収した本当の理由 (5ページ目)

  • ジェームス・モンターギュ●取材・文 text by James Montague 井川洋一●訳 translation by Yoichi Igawa

 この訴訟を綿密に取材したロシア人のベテラン記者、マーシャ・ゲッセンはアメリカの月刊誌『ヴァニティ・フェア』に次のように書いた。

「自身を擁護するなかで、アブラモビッチは重要な告白をしている。(中略)プーチンと敵対すれば、ロシアにおけるビジネスとそれを運営する者は、危険に晒されるということを」

 訴訟が終わってから約1年後、ベレゾフスキーはイギリス国内の自宅で、死体で発見された。首吊り自殺とみられているが、検死官は「死因不明の評決(open verdict)」としている。

 それに対してアブラモビッチは、"プーチン・サークル"の重要人物になっていった。2005年にシブネフチをガスプロムに131億ドルで売却して世界有数の資産家となり、2000年から2008年までチュクチ自治管区の知事を務めた。そして2010年まで続いた2018年W杯招致活動では、中心人物のひとりとしてロシアでのW杯開催を実現させている。

 ただし、彼の投資や役割のうち、世界でもっとも知られているのはチェルシーのオーナーとしての顔だ。買収後の10年間でおよそ20億ポンドを費やし、チームを真の強豪に仕立て上げた。2003年にアブラモビッチがオーナーとなってから、ロンドンのブルーズはイングランドでもっとも多くのタイトルを獲得し、そこにはクラブの悲願だったチャンピオンズリーグ(2011-12シーズン)も含まれる。

 アメリカの経済誌『フォーブス』によると、チェルシーはユベントスやミラン、リバプールらを抑えて、世界で7番目に資産価値の高いサッカークラブだ。そして、現在改装中の本拠地スタンフォード・ブリッジは、最新鋭の設備を持つスタジアムに生まれ変わろうとしている。チェルシーのサポーターは、これまで以上にこのロシア人オーナーを崇拝するだろう。

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