苦しい時には必ずモドリッチがいる。旧ユーゴ内戦を乗り越えた男の本性 (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki 藤田真郷●写真 photo by Fujita Masato

 そんな絶賛の声は日々、高まっている。

 では、痩身で小柄なMFの本性とは――。

 モドリッチは5、6歳の頃、1991年に起こった旧ユーゴスラビア紛争に巻き込まれている。激しい内戦で、モドリッチはゲリラに捕縛された祖父が殺されるのを、その目で見たという。

 その後、家族は村を出て、森を抜け、山を越え、町に落ち延びた。新しい家を探したが見つからず、難民が暮らすホテルに仮住まいするようになった。そこで難民の子供たちと、サッカーボールを蹴るようになった。

 少年の才能は際立っていた。やがて地元クラブでプレーするようになり、大成する。

「ルカは幼少期に、一番辛い時期を乗り越えた。だから、ピッチでも苦しい状況を好転させることができるのだ」

 そんな言い方をする関係者もいるが、モドリッチのプレーに悲壮感はない。

「避難した後も大変なことが起きているとは、実はわからなかった」と、モドリッチは当時を回顧している。両親が息子を、できる限り戦火を感じさせない環境に置こうとしたのだ。

 そしてモドリッチは、サッカープレーヤーとしての才能をひたすら純粋に伸ばすことができた。その天性のおかげで、絶対的な選手になった。故ヨハン・クライフは「ストリートが真のフットボーラーを生み出す」という持論の持ち主だったが、避難所でボールに集中する日々が、図らずも野生的な直感を鍛えたのかもしれない。

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