セレソンは甘やかされていた。
チッチ監督は続投も、ネイマールは正念場

  • リカルド・セティオン●文 text by Ricardo Setyon 利根川晶子●翻訳 translation by Tonegawa Akiko

 もちろん、まるっきり実力がなかったわけではない。ブラジルが腹をくくってからは、いいプレーも見せていた。ただ、すべての試合の立ち上がり20分は、どれも最低だった。自分たちは強いという驕った気持ちを捨てきれなかったからだ。強いはずなのに思うようにプレーできない。そこで混乱し、パニックになる。感情的になる。後半は多少改善されるが、次の試合ではまた一からやり直し......。

 チッチ監督の采配も問題だった。

 チッチはどんなに悪いプレーをしても、その選手に注意しなかった。スイス戦の後、変える必要があると周囲が騒いでも、決してスタメンは変えない。彼はガブリエル・ジェズスにこう言って使い続ける。

「君は天才だ。大丈夫、きっと次の試合では活躍できる」

 彼の狙いはこうだったのだろう。調子が悪くてもガブリエル・ジェズスを使い続ければ、彼はきっとそのメッセージを理解し、奮闘してくれる。反対にフィルミーノをベンチに置き続ければ、それだけプレーへの強い気持ちが生まれ、いざというときに大きな力となる――。

 代表メンバーの選考にしてもそうだ。チッチは、新しい選手を発掘するよりも、起用してきた選手を使い続けることを望んだ。新たな選手と新たな関係を築くより、すでに気心の知れた選手を使うほうがやりやすいのは当たり前だ。

 しかし、それはクラブチームの監督のロジックだろう。ここぞという試合で、最大の力を発揮する選手を選び出す。それが代表監督の仕事だ。

 そして彼は、いくら調子が悪くてもネイマールを下げる勇気がなかった。テレビ局やスポンサーが彼を使うことを望んでいるのを知っていたからだ。

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