クロアチアのサイドチェンジは美しい。イングランドを下し決勝進出 (3ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki 藤田真郷●写真 photo by Fujita Masato

 しかし、このクロアチアの同点ゴールのシーンで、最もイングランドにダメージを与えたプレーは何かと言えば、ブルサリコが送ったクロスのひとつ前のプレーである。その直前までボールは、クロアチアの左サイドにあった。中央から左に展開されていった。そのボールがどうして、右の大外で構えるブルサリコの下へ移動したか。

 ラキティッチの右足から放たれたサイドチェンジにある。ブルサリコまでの距離は50m以上。彼はこれを寸分の狂いもなく決めた。そのキックの鮮やかさに酔いしれている間に、ボールはブルサリコ、ペリシッチと渡り、クロアチアの同点ゴールが生まれた。

 現代サッカーのサイドチェンジとは、かくあるべしと力説したくなる、イングランドDF陣に態勢を整える余裕を与えないサイドチェンジ。スピード感溢れる、美しくも芸術的な必殺のキックだった。"ジャパンズウェイ"などと言われている現行の日本式パスサッカーに、このラキティッチのキックはおおよそ存在しない。学習すべき技量であることは言うまでもない。

 同点ゴールを浴びたイングランドに落胆の色が見えるなか、クロアチアは攻勢をかける。74分には、ペリシッチが右ポスト直撃弾を放つ。83分は、マンジュキッチの胸トラップ&シュートがGK正面を突く。その1分後にも、ペリシッチが惜しいシュートを外していた。

 90分間で、決定的なパンチを奪えなかったクロアチアは、決勝トーナメントに入り3戦連続して延長戦を戦うことになった。体力的に大丈夫なのか。実際、延長に入ると、ダウン寸前だったイングランドが少し息を吹き返す。不安が過ぎった。

 特段こちらは、クロアチアのサポーターというわけではない。これはイングランドに勝たれることへの不安である。W杯の決勝を戦うに相応しい技量が彼らにはなかった。あるのは身体のキレと、精神的なノリだ。時間がたつにつれ、イングランドのプレーはかなり稚拙になっていた。決勝で再び見るには厳しいレベルにまで下がっていた。

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