アルゼンチン撃破。優勝候補フランスの穴は「驚異のムバッペ」にあり

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki photo by JMPA

 フランス1-9アルゼンチン。眺望に優れたカザン・アレーナは、ファンの数的にはアルゼンチンが断然、勝っていた。その瞬間、その分だけスタンドは静まりかえることになった。

 キリアン・ムバッペが疾走する姿は驚異的だった。陸上の100mなら10秒台前半は間違いない。日本選手権ならファイナルに残れるかも。サッカーではなく他の競技に転向したほうが、より大成するのではないか、とまで言いたくなるほど高速だった。

先制点となるPKを奪取し、その後2得点を挙げたキリアン・ムバッペ先制点となるPKを奪取し、その後2得点を挙げたキリアン・ムバッペ ただ、逆にいえば、それはこれまでのサッカー界が積極的には欲してこなかった類の要素のようにも見えた。"ティエリー・アンリ2世"といわれるムバッペだが、新種のスターだ。アンリには既視感があったが、ムバッペにはない。速さをいちばんの売りにしたスター選手は、サッカー界には数少ない。メチャクチャ巧い選手とメチャクチャ速い選手がいたら、従来のファンが欲してきたのは、メチャクチャ巧い選手だった。

 前半16分、そのムバッペを倒したのはアルゼンチンのDFマルコス・ロホだった。だが、明らかな反則ではあるけれど、「これは仕方がない」と。敵のみならず、味方でさえも納得してしまいそうな反則だった。判定はPKで、フランスが先制した。

 ムバッペを走らせればチャンスになる。接戦が予想された試合で、あっさり先制したフランスは、次第に攻撃が雑になっていった。そこに付け入る余地を、アルゼンチンは徐々に見出し始めていた。

 アルゼンチンのこの日の布陣は4-3-3だった。これまで4-2-3-1だったり、4-4-2だったり、布陣が一定しない理由はわかりやすかった。リオネル・メッシというスーパースターの存在であり、相手ボール時には問題児となる選手を、どこに配置するのが適当か、試行錯誤を繰り返してきた結果だ。

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