「大人の事情」に巻き込まれたサラー。嫌気がさして代表引退の噂 (3ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki スエイシナオヨシ●写真 photo by Sueishi Naoyoshi

 まず、サラーとエジプトサッカー協会の関係はけっして良好とはいえなかった。協会はサラーに無断で、チャーター機の胴体に彼の写真を使用。他にもサラーを広告塔のように扱ったことが問題に発展している。

 もうひとつ、重大なことがあった。エジプトはチェチェン共和国で代表キャンプを行なったのだが、その首長であるラムザン・カディロフが、ことあるごとにサラーを政治的に利用したのだ(チェチェンはロシアからの独立を考えているともいわれる)。政治のスポーツへの干渉。それはあってはならないことだった。

 一連の"大人の事情"に巻き込まれたサラーは、代表引退どころか、W杯の途中で代表合宿から去るのではないかという話まで出ていた。

 サウジアラビア戦で同点に追いつかれたエジプトは、終了間際に決勝点を決められ、3戦全敗でロシアを去ることになった。スタンドには大勢のエジプトサポーターがいたにもかかわらず、多くの選手が逃げるようにロッカールームに駆け込んでいった。

 そんななかで、サラーはピッチにとどまり、相手選手と健闘を称え合い、観客に対して拍手を繰り返した。その表情はいたって穏やかだった。

 ところがピッチを去りかけたとき、関係者に呼び止められた。フラッシュインタビューを受けるように、という指示だった。サラーはそれを無視した。するとその関係者は、人気者のサラーを抱き寄せながら、携帯で自撮りを始めた。虚しくなるような光景だった。

「W杯でプレーするのが夢だった」

 大会前、サラーは明るくそう語っていた。

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