データが示す「史上最強のメッシ」がアルゼンチン代表で輝けない理由 (3ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 バルセロナとは好対照だが、アルゼンチン代表には明確なプレースタイルがない。たいていは監督がメッシに、戦術についての考えを聞く。どんなシステムが彼に合うかを知るためだ。しかし、内気なメッシはほとんど話をしない。

 2010年のワールドカップ南アフリカ大会のギリシャ戦で、初めて代表のキャプテンマークをつけたとき、メッシはひどく緊張していた。試合に対してではない。アルゼンチン代表のキャプテンは、試合前のロッカールームでチームメイトを前に何か話すことになっているからだ。案の定、メッシは大失敗した。アルゼンチンは準々決勝でドイツに0-4と完敗して、大会から姿を消した。

 ドイツはメッシを止める方法を見つけ、アルゼンチンの監督マラドーナを見事につまずかせた。メッシには、相手ゴールから50メートル離れた、パスの出しどころもほとんどない場所でボールを持たせるだけでいい。ドイツは9人でメッシを止めにかかり、彼はその壁をこじ開けられなかった。

 次の2014年のワールドカップ・ブラジル大会でも、アルゼンチンはメッシを中心にしてチームをつくろうとした。経験の浅いアレハンドロ・サベーラ監督は気づいていなかったかもしれないが、彼が代表監督に選ばれた理由は、メッシの言うことなら何でも聞くという一点だけだった。

 メッシは自分からは話さないから、サベーラは子どものころから彼をよく知るチームメイトのアンヘル・ディ・マリアやセルヒオ・アグエロに、メッシが何を望んでいるか尋ねたものだ。メッシが、パス回しを速くするためにフェルナンド・ガゴとゴンサロ・イグアインを使ってほしいと思っていることがわかると、サベーラはそのとおりにした。

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