美しい辞任を選んだジダン。
レアル監督はあまりに「ややこしい仕事」

  • 山本孔一●文 text by Yamamoto Koichi photo by AFP/AFLO

 そのため今季は、チームに対して地元メディアから批判の声が少なからず上がっていたのも確かだ。「試合が膠着状態に陥った際、打破する戦術を持っていない」「バランスの悪いサッカーで、容易に相手に反攻の機会を与えてしまっている」「試合開始直後の失点が多い」「クリスティアーノ・ロナウド依存症だ」......。

 それでも、監督ジダンが大きく炎上することはなかった。その理由は、敵を作らないジダンの人間性と、ときに奇跡的な勝利を引き寄せる、常人にはないカリスマ性が大きかったのだろう。

 ジダンが監督を務めた3年の間、メディアの姿勢は明らかに歴代の監督に対してのものとは違った。監督個人への批判、責任を追求する攻撃はほぼ皆無であり、どちらかといえば、ともに問題を解決していこうという提言や進言の類が多かった。

 とはいえ、選手起用や補強に関しては、正しい答えなどないような質問が、毎回、フランス人監督へ飛んでいた。

 ジダンが「チームにとってこれが最高のメンバーだ」と思って送り出しても、ベンチに座った選手の獲得に要した金額の高さや、代表では主力であることを理由に、「なぜ、起用しないのか」と問い詰められるシーンは何度も見てきた。そしてその選手を起用すればしたで、今度は「なぜ、こっちの選手は起用しないのか」といった質問が飛ぶ。

 世界トップクラスの選手が揃うチームだからこその宿命といえばそれまでだが、そんな"いたちごっこ"のような問答を、ジダンはいつも強いられていた。

 英紙サンが報じた記事もその手のものかもしれない。辞任発表の1日前、フロレンティーノ・ペレス会長と補強について話をした際、ダビド・デ・ヘア(マンチェスター・ユナイテッド)の獲得について口論になったことが退団の原因であると、スペイン地元紙も掴んでいない情報が載った。

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