さらば、カカ。セレソンとミランで輝いた
異色のお坊ちゃんスターが引退

  • 沢田啓明●文 text by Sawada Hiroaki photo by Getty Images

 プロとしてのキャリアを始める前に、カカは大きな危機に直面する。U-20で練習を積んでいた18歳のとき、休暇中にプールで遊んでいて、頭をプールの底に強く打ちつけて脊椎を損傷。「僕はまたサッカーができるんでしょうか」と悲痛な面持ちで尋ねた少年に対し、医者は「君はあやうく半身不随になるところだったんだ。歩けるだけでも神様に感謝しなさい」と答えた。

 2カ月余りの治療の後、練習へ復帰。すると2001年の初めにトップチームの監督から「MFとFWを1人ずつ貸してくれないか」と頼まれたU-20の監督は、「MFのレギュラーは貸せないが、彼の控えでよければ......」と返答する。それが、故障上がりの童顔で痩せっぽちの少年だった。

 カカはシーズン前哨戦で鮮烈なデビューを飾り、貴重な得点を記録。ほどなく名門サンパウロFCのレギュラーポジションを獲得した。この活躍がブラジル代表のルイス・フェリペ・スコラーリ監督の目に留まり、2002年ワールドカップ(日韓)に招集される。カカは1次リーグのコスタリカ戦に途中出場し、チームは通算5度目の優勝を達成した。

 2003年、イタリアの名門ACミランへ移籍すると、爆発的な加速でマーカーを引きちぎり、強烈なシュートを叩き込んでミラニスタを熱狂させた。ゴール前やや左寄りの位置で右足を強く振り抜くと、ボールは大きなカーブを描いてファーサイドへ吸い込まれる。その美しい軌道に、世界中のサッカーファンが魅了された。

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