街のアイドル・乾貴士。歴史的2ゴールでエイバル市民を幸せにする (3ページ目)

  • 山本孔一●文 text by Yamamoto Koichi photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

「『絶対にお前が点獲るから』って、(ダビド・)ジュンカーが試合前に言ってくれた。で、1点目を獲ってハーフタイムで、『お前は俺に何もしてこーへんな』って(言われた)。だから『点を獲るから待ってろよ』って。で、決めてあいつに向かって手を振りました」

 いつもながら、エイバルと乾の関係は、どこか自然と微笑が浮かぶようなところがある。試合終了後に興奮した口調で「イヌイがよかった」と褒めてくれる女性ファンや、「Takashi Inui!」と声をかけてくる若者を見ていると、日本人選手がこの町で本当に愛されていることがわかる。そしてまたクラブのクリスマスキャンペーンのビデオで、歳上なのにチームメイトたちにいじられまくっている乾を見ていると、彼が実にいいチームを選んだんだなと、しみじみと感じさせられるのだ。

 乾はクリスマス前の試合で、大きなプレゼントをエイバルの人々に贈ってみせた。きっとそれは、いつもパパの勝利を願っている最愛の息子にとっても素敵なプレゼントになったのだろうと思って質問すると、乾の返答はどこか歯切れの悪いものだった。

「まあ、そうですね......けど、ゴールよりもゲームがほしいって。だからゲームも買ってあげたいなと。まあ、そんなもんでしょう(笑)」

 エイバルと乾が幸福に包まれた夜だった。

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