イブラヒモビッチを虜にした凄腕代理人の「交渉術」と「予知能力」 (5ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper  森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 12時10分になってもモッジが来なかったので、ライオラは帰った。それでも結局、ネドベドはユベントスに移籍することになり、2003年にはバロンドール(ヨーロッパ最優秀選手賞)に輝いた。今は引退しているが、まだ彼はライオラと連絡を取り合っている。

 これがライオラだ。選手に寄り添い、クラブと権威には敵意をむき出しにする。FIFA(国際サッカー連盟)は以前、ライオラに罰金を科したことがある。ライオラが当時のゼップ・ブラッター会長に対抗して、会長選に立候補を表明していたころ、ブラッターを「もうろくした独裁者」と呼んだためだ。

 クライアントである選手たちはライオラのことを、どんなときにも頼れる友人のように思っている。マリオ・バロテッリは自宅で花火をして家を燃やしてしまったとき、真っ先にライオラに電話した。ライオラはすぐに消防車を呼べと言った。

 あなたは選手のことを友だちだと思っている? 「99%はそうだね」と、彼は答える。

 では、ポール・ポグバのことはクライアントだと思っていない? 「クライアントだなんて思ったことはない。まあ、家族みたいなものだ」

 あなたは、常連客に愛される家族経営のピザ屋のビジネスモデルをフットボール界に持ち込んだのでは? 僕がそう言うと、彼の目が輝く。

「知らず知らずのうちに、そうしていたのかもしれないな。今言われて、ちょっとドキッとしたよ。でも、うちのことをピザ屋だとは考えていなかった」

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