リオ五輪を覆う暗い影。ドーピング問題が解決不可能なわけ (3ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 ソ連のKGB(国家保安委員会)の後継組織であるFSB(国家保安庁)も、汚れた検体をきれいなものとすり替えるのに関与していたと、WADAの調査チームの報告書にはある(ふつうは開けられない尿検体のボトルのふたを開封する方法を見つけたことが、FSBにとって大きな発見になったようだ)。

 WADAの調査結果は、ロシアが2012年ロンドン大会で獲得した82個のメダルの一部と、2014年のソチ冬季大会で国別ではトップだった33個のメダルに疑念を投げかけるものだ。

 しかしロシアのビタリー・ムトコ・スポーツ相は、ドーピングは「ロシアだけでなく、世界的な問題だ」と言う。そのとおりだ。ロシアの事例とは別に、IOCは7月、2008年の北京大会の検体を再検査したところ、メダリスト23人のものから禁止薬物が検出されたと発表した。リオデジャネイロで誕生するヒーローのうち、将来、何人がその正体を暴かれることになるのだろう。

「こんな状況は好まない。とくに私のようなスポーツファンは」と、IOCのトーマス・バッハ会長は僕に言った。「満足できない状況だ」

 それでもIOCは、ロシア選手団全体をリオデジャネイロ大会から締め出すことはしないと決定した。バッハは「集団の責任」と「個人の正義」とのバランスをとったと語った。ロシア選手団全員の締め出しを提言していたWADAは、この決定に「失望した」としている。

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