ユーロならではのB級好試合。大舞台初登場のアルバニアが大健闘 (2ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

 クライマックスは87分に訪れた。主役となったのは、その5分前に投入されたばかりのアルバニアFWシュケルゼン・ガシ。その瞬間、スイスGKヤン・ゾマーと1対1の局面を迎えていた。ペナルティショットを彷彿させるような絶対的チャンスである。

 決まれば1対1。10人のアルバニアにとっては勝ちにも等しい引き分けだ。逆にスイスにとっては痛すぎる失点。思いをめぐらすには十分な時間があった。ドラマ性を高めてくれたわけだが、結果はゾマーの勝ち。

 ガシは大魚を逃した。アルバニア国民の期待を裏切る恰好になったが、微笑ましかったのは、試合後の光景だった。これが日本人のFWなら、終了の笛が響き渡るや、頭を抱えていたに違いない。先のボスニア・ヘルツェゴビナ戦で、最後にシュートを打たず、パスにならないパスに逃げた浅野拓磨のように、申し訳なさそうな顔をするものだ。

 ところが、ガシはすぐにスイスGKゾマーのもとに歩み寄った。健闘を讃え合おうと握手の手を差し出すとゾマーも快く反応。2人は固く抱擁を交わした。

 PK戦を戦ったGK同士が、試合後、互いの健闘を讃え合うシーンには幾度となく遭遇したことがあるが、シュートを止めたGKと外したFWとの抱擁は見た記憶がない。そうこうしていると、スイスの他の選手も、ガシのもとに笑顔で寄ってきて握手をしたり、にこやかに言葉を交わし始めた。そして、ついにはスイス代表監督、ウラジミール・ペトコビッチまで彼の元に寄ってきた。

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