世界が注目のレスター。地域のライバルからも無視された弱小の歴史

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper   森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 フットボールファンの世界だけではない。1976年には、白人至上主義を掲げる極右政党の国民戦線がレスターで18%の得票率をあげた。

 地元のクラブから相手にされていないと感じた非白人の住民は、他の都市のもっと華やかなクラブを応援するようになったが、それでもレスターのことは気にかけていた。イギリスのフットボールファンは、ひとつのクラブに忠誠を誓うように思われているが、いくつものクラブを応援するファンはとても多い(これも大きな声では言えない)。

 イスラム系住民が多いハイフィールズ地区の公園でボールを蹴っている子どもたちは、チェルシーやマンチェスター・ユナイテッドのシャツを着ていても、レスターのユニフォームは見かけない。とはいえ、これは人種問題の表れとばかりも言えない。レスター生まれで、今は米NBCテレビでプレミアリーグの実況アナウンサーを務めるアーロ・ホワイトは、ため息をつきながら言った。「レスターが昔から抱えている問題は、肌の色に関係なく、ともかくファンを取り込む方法がわかっていないことだ」

 フットボールクラブは、レスターのスポーツを代表するチームですらないとも言える。レスター大学でフットボール社会学を研究するジョン・ウィリアムズは「レスターはクラブがふたつある町、フットボールとラグビーだ」と指摘する。

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