CL準々決勝は「消えゆくウィングの生き残り」ヘスス・ナバスに注目 (3ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki photo by Getty Images

「僕にとっては、スピードがすべてのプレーのベースだね。スピードは頭の回転でもある。閃きと言ってもいい。瞬間的に判断を下し、迅速にプレーできるか。それで勝負は決まる。僕はまず縦に突っ込んでいく、ゴールに向かってね。どのコースを破れるのか、見抜くのさ。それは兄たちと遊んでいたストリートサッカーで身につけた技能かもしれない」

 単純な足の速さよりも、鋭い感覚的なプレーが彼を特別な選手にしているのだろう。もっともナバスは鬼才の持ち主であったが故に、少年時代は過敏で壊れやすくナイーブだった。

 スペイン、アンダルシア地方のセビージャで生まれ育ったナバスは、感受性が鋭すぎた。18歳を過ぎても、精神的安定を保つのが難しい子どもだった。とにかく地元を離れて過ごすのが苦手。バスに乗り込もうとするとその足は止まってしまい、長距離の遠征は断念せざるを得なかった。2005年のワールドユースは合宿地でその症状が悪化し、呼吸困難や眩暈で倒れそうになって、帰国を余儀なくされた。期待の若手としてメディアに取り上げられて注目度が高まったことも、本人には大きなストレスだった。

「ホームゲームにしか出場できない選手」と揶揄されたこともある。

 しかし、ボールプレーヤーとしての才気はフットボールの神に愛されていた。家族や恋人が作り出してくれた環境もあったのだろう。年を重ねるにつれ、自然と問題を克服していった。

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