クライフはオランダサッカーの時計を止めてしまった

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper  森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 クライフはオランダにとって時間をフリーズさせることにひと役買い、70年代のフットボールこそ完璧だったと主張した。右ウイングは右利きの選手が、左ウイングは左利きの選手がやるべきだなどと、最近の主流の考え方とは逆のことも言った。

 もうひとつ重要なのは、クライフが考えることを重視したために、体力を過小評価するようになったことだ。最近の選手は1試合に12キロ走る。クライフが現役だったころの3倍だ。「正しい方向に走っているのか」と、クライフは言った。オランダのサッカー解説者レネ・ファン・デル・ハイプは、もしオランダが勝ちたいなら、他国にそんなに走ってはいけないと言うべきではないのかと、ジョークで切り返した。

 最近の世界のフットボールに革命をもたらしたフィジカル面のトレーニングも、クライフは軽蔑していた。残念ながら、オランダ人は彼の意見にしっかり耳を傾けた。その結果、オランダのチームが外国勢と戦うと、『テレタビーズ』(幼児向けの人気テレビ番組)のおなかの突き出たキャラクターたちがボディビルダーと対決しているようにみえることがある。

 クライフはオランダ・フットボールを発明したが、現在の低迷を招く要因もつくったのだ。オランダ代表は今年の欧州選手権の予選で敗れ、オランダのクラブは考える価値もないほどみじめな状況にある。

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