クライフは言った。「5対2の練習にサッカーのすべてが詰まっている」 (3ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper  森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 クライフがいたアヤックスとオランダ代表は、どのチームよりも速いパスを出した。彼らにとってフットボールは、「スペースをめざすダンス」だった。ディフェンダーはオーバーラップをして、ゴールキーパーはスイーパーの役割を担い、どの選手も予測もつかない場所に顔を出しつづける。外国人はこのスタイルを「トータル・フットボール」と呼んだが、オランダ人はたいてい「オランダ派」という言い方をする。

 もっと正確にいえば、これは「クライフ派」だった。アーセン・ベンゲルがかつて僕に、驚いた口調でこう語ったことがある。クライフはときどき中盤に下がり、ふたりのチームメイトにポジションを入れ替えろと言う。その15分後に、クライフは元に戻れと言ったりする。クライフ以後、これだけピッチの中で指揮をとれる選手はほとんど現れていないから、誰かがクライフ派のフットボールをまねることは不可能に近いとベンゲルは言った。

 しかしオランダ代表は、かなり近いことを成し遂げた。クライフ世代の偉大なオランダ人指導者(たとえばファン・ハールやフース・ヒディンク)は「オランダ派」のフットボールをやってみせた。

 ファン・ハールとクライフは、個人的にはウマが合わなかった。クライフがアヤックスを世界一のチームにしようとしていたころ、ファン・ハールはアヤックスの2軍選手で、知的だが動きの遅いプレーメーカーだった。いわば彼は「クライフになりたい派」だった。

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