買収から10年。アメリカの富豪がマンUで行なったこと (4ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper  森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 しかしグレイザー家は、もっと賢かった。彼らはユナイテッドを変えたくなかった。グレイザー家がユナイテッドを買ったのは、まさにこのクラブがしっかりと運営され、つねに収益を出していたためだ。彼らは最悪の産業における最高の組織に狙いを定めていた。

 グレイザー兄弟が初めてオールド・トラフォードを訪れたとき、ユナイテッドのスタッフ全員がジョエル・グレイザーの話を聞くために集まった。その場でジョエルは、グレイザー家はオーナーとしてユナイテッドの伝統を尊重すると語った。

 この言葉に嘘はなかったと言っていいだろう。ファーガソンをクビにするどころか、グレイザー家はつねに彼を尊重した。試合後のロッカールームに出向き、ファーガソンと選手たちに向けて称賛の言葉を口にしたことはあっても、自分たちからファーガソンを呼びつけたことは一度もない。

 ジョエル・グレイザーはナヤニにこう語っている。「サー・ボビー(チャールトン)はクラブの至宝だ。彼こそがマンチェスター・ユナイテッドだ」。ファーガソンとボビー・チャールトンがグレイザー家の有能な「大使」のような立場になり、サポーターの怒りを自分たちのところで食い止める役割を担ったことも納得がいく。

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