どん底ドルトムントにも、香川真司にひと筋の光を見た (2ページ目)

  • 了戒美子●文 photo by Ryokai Yoshiko
  • photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

 あまりにもその戦いぶりはふがいなく、情けないものだった。この日の敗戦で、ドルトムントは17位ヘルタに勝ち点差2の単独最下位に落ちた。2季連続優勝、2季連続2位、チャンピオンズリーグでも準優勝と、欧州のトップクラブに上り詰めようとしているクラブのこの体たらく。ブーイングも仕方あるまい。

 後半途中から出場した香川真司が語る。

「今年はある意味、初めてのことばかりだと思います。逆に(かつて所属した)2年間は良かったですから、こういうのも一つの経験ですし......。サポーターも耐えてくれていたので、(ブーイングも)必然的なものだと思います。でも、この状況を打開するのは自分次第、自分たち次第なので......頑張っていきたいと思います」

 試合終了のホイッスルと同時に、両手を膝について疲労感を全面に出したのはアウクスブルクの選手たちだった。彼らは倒れ込み、抱き合い、喜びを思いきり表現した。これまで「走りきる」といえばドルトムントの代名詞だったはずだが、その根本が崩れている。ドルトムントの選手は力なくうなだれるのみ。それ自体が衝撃的なシーンだった。歯車の狂いは小さくない。

 香川個人についていえば、落ち着きが戻ってきている様子だ。前半戦の後半に出場機会を失い「このままでは僕は終わる」と、悲壮感を漂わせた頃とは違う。もちろんアジアカップでPKを外した直後とも違っていた。むしろ明るさと充実感を感じさせ、「今季、一番の状態」なのだと言う。この日は後半27分から出場し、前線で落ち着いた判断と好プレイを見せた。願わくばもう少し強引なプレイが見たいところだが、焦る味方たちの中で、その冷静さは光っていた。

「ひとつの流れをつかめれば、絶対それだけの選手がいるわけですから、必ず立ち直っていけると信じています。負けて言うのもあれですけど、(個人的には)メンタル的には今は一番充実してると思いますし、本当にサッカーに集中できている。その過程を踏めば結果はついてくると信じているし、だからそのチャンスをしっかりと待って、少しずつ階段を上がっていきたいと思います」

 先発11人の当落線上にいる頃に比べて、ベンチスタートが多くなったことで何かが吹っ切れたようにも見える。また昨季、名門マンチェスター・ユナイテッドが凋落していくそのど真ん中にいた経験が生きているのかもしれない。慌てず騒がず、一つ一つ勝ち上がっていくしかない......皮肉でも何でもなく、その言葉は実感に満ちているように響いた。

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