SNSをビジネスの中核に据えるビッグクラブ (2ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 たとえばユベントスは昨年、アンドレア・ピルロの動画をアップした。シドニー・オペラハウスが見える海沿いに、ピルロが座っている。彼の目の前にいろんな人が現れて、いろいろとおかしなことをするのだが、ピルロはいつものように表情ひとつ変えることがない。この動画は"#Pirloisnotimpressed"(ピルロは驚かない)というハッシュタグとともにソーシャルメディアを駆けめぐり、YouTubeで100万ビューを突破した
http://www.youtube.com/watch?v=8BVcyCBMzNQ )。

 ビッグクラブは最近、ビデオ製作者やウェブサイト編集者、いくつもの外国語ができるジャーナリストに仕事を依頼することが増えてきた。「組織のカルチャーにとっては、実に大きな変化だ」と、ユベントスの財務担当フランチェスコ・カルボは言う。ユベントスが新しく採用しているスタッフは、他のフットボールクラブではなく、他の業種で経験を積んだ人たちだ。そのうち多くの人が英語を使える。

「バイエルンのようなクラブは、メディア製作会社と言ってもいい」と、バイエルンでデジタルメディアを統括するステファン・メネリッヒは国際フットボールアリーナの会議で語った。バイエルンのソーシャルメディア担当チームは選手と一緒に移動し、同じホテルに泊まっているから、クラブが公開を認めている「内幕」をファンに提供することができる。

 マンチェスター・ユナイテッドでも事情は同じだ。「うちのクラブは携帯・スマホを最優先に考えているメディア組織だ」と、ユナイテッドのグループ・マネージングディレクターを務めるリチャード・アーノルドは言う。「18の言語でコンテンツを展開している。正直、これは大変な仕事だ。それぞれの言葉と文化に、しっかり配慮しなくてはいけないから」

 こうした流れの副産物とでも言うべきものがある。今、フットボールクラブは昔ながらのメディアと競合関係を持つようになった。

 たとえば3年前に、アーセナルの情報を知りたいと思ったら、新聞のウェブサイトに行ったかもしれない。あるいは、もっと入れ込んでいるファンなら、紙の新聞を買っていただろう。

 でも今なら、アーセナルがフェイスブックに設けているページに、じかに行けばいい。試合前には先発メンバーの動画がアップされているし、試合が終わったら選手の独占インタビューがアップされる。外部のジャーナリストが食い込むことのできない領域だ。

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