マンUはソーシャルメディアで何を目指しているのか (3ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 しかしフットボールクラブのデータベースは他にはない貴重なものになる可能性があると、レダビ・エージェンシーのブランディングの専門家オリバー・カイザーは言う。まず、ビッグクラブは一般の企業よりソーシャルメディア上のフォロワーが多い。ユナイテッドのフォロワー数は、ナイキやマクドナルドを上回る。ふたつめに、フットボールクラブは多くの企業とは違って、ファンの愛情や忠誠心を支配する。「ファンは世界で最も感情的な生き物だ。クラブのためなら何でもやるだろう」と、カイザーは国際フットボールアリーナの会議で語った。そんなファンが試合を見ているときにクラブが「セカンドスクリーン」を通じてつながれば、感情が最高に盛り上がっているときのファンと結びつくことができる。

 やがてはデータベースのおかげで、クラブは個々のファンの好みに合った「オーダーメイド」のサービスを提供するようになるだろう。クラブはユニフォームやテレビの視聴権を売ることができるが、自分たちよりはるかに大きな企業がファンを顧客にするのを手助けすることもできる。たとえば、あるクラブが、ドイツの20代の男性で、年収が5万ユーロ(約730万円)以上で、車を欲しいと思っているファンのリストを持っていたら、これは大変な価値を持つ。

「賢いクラブはやがて他の企業に『うちの2500万人のファンが欲しいだろう。ただであげるわけにはいかない。これはうちのクラブのものだから』と言うようになる」と、カイザーは言う。相手の企業は大金を出さざるをえない。2500万人のファンのデータベースは数十億ユーロの価値があると、彼は言う。

「アイデンティティー企業」になるために、ビッグクラブはビジネスの最前線で経験を積んできた人材を次々と雇い入れるようになった。今ではクラブ関係者が「CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント=顧客関係管理)」という言葉を口にするのも珍しくない。「私たちは適切なCRM戦略を取りたい」と、ユベントスの財務担当で、たばこ会社のフィリップ・モリスにいたフランチェスコ・カルボは言う。「ファンには、私たちのシステムに登録してもらえるようにしたい。サポーターのことを知り、彼らに影響力を及ぼす力は、増収のために欠かせない」。ファンは自分の情報をクラブに与えることに問題を感じていないと、ユベントスはみている。

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