2015.01.03

マンUはソーシャルメディアで何を目指しているのか

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 フットボール界の慎重な姿勢に、フェイスブック社のグレン・ミラーはいら立ちを隠さない。クラブはスキャンダルを怖がりすぎていると、彼は言う。多くの若者はソーシャルメディア上の大げさで荒っぽいやりとりに慣れているし、いくら新聞が選手たちの失言をスクープしたとしても、そもそも新聞自体を読まないファンも増えている。それなのにクラブは今も選手たちに、「ネット上で言ってはいけないこと」をしつこく言い含めている。

 それでもクラブは遅ればせながら、ソーシャルメディアをビジネスチャンスととらえるようになってきた。今は大変な勢いでソーシャルメディアを学びはじめている。

 ボルシア・ドルトムントは1年前、監督のユルゲン・クロップが契約を更改したときの写真をツイートした。写真でいちばん目立っていたのは、彼がサインするのに使ったペンだった。そばにあったから使っただけなのだろうが、そのペンはドイツの文具メーカー、スタビロのものだった。ソーシャルメディア上のファンは、そこを見逃さなかった。スタビロの関係者は大喜びだったと、ツイッター・ドイツのスポーツ担当パウル・コイタは言う。

 ソーシャルメディアを理解しているクラブは、スポンサーにとっても価値が増す。ユナイテッドがソーシャルメディアを導入した直後の2012年に、ゼネラル・モーターズ(GM)のブランド「シボレー」と、2014~15シーズンからの胸広告の契約を年間4700ポンド(約87億円)という史上最高額で結んだのは決して偶然ではない。

 しかしユナイテッドのようなクラブがめざすのは、スポンサーの獲得より大きなものだ。ソーシャルメディアを使えばユナイテッドは、マレーシアのクアラルンプールに住み、ヨーロッパに行ったこともない「アブドル」のようなファンとつながることができる。ユナイテッドがそうしたファンを登録していけば、事実上のデータベース企業になれる。このとき大きな価値を持つのは、サポーターがどんな人物で、どんな消費の習慣を持っているかを把握していることだ。

 さまざまな分野の企業が今、同じゴールをめざしている。フェイスブックとグーグルは「アイデンティティー企業」として知られている。これらの企業はサービスを無料で提供し、その見返りにユーザーは自分の「アイデンティティー」を企業に与える。