FIFAは2022年W杯のカタール開催を白紙に戻せるか

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

「機能不全の政府が最も危険なのは、たいてい改革を始めるときだ」と、19世紀のフランスの政治思想家アレクシ・ド・トクビルは書いた。FIFAもぎこちないながら、改革に着手している。一部の理事を追放し、アメリカ人の元検事マイケル・ガルシアにスキャンダルの調査を依頼した。2026年のワールドカップ開催国は、従来のように理事会ではなく、加盟する209カ国・地域の連盟の投票で選ぶことも決めた。

 FIFAのゼップ・ブラッター会長としては、改革の流れを抑えたいところだ。ブラッターにしてみれば、FIFAは非常にしっかり運営されている。ある国際的なサッカー関係者によれば、ブラッターはノーベル平和賞を欲しがっているそうだ。フットボールを通じて世界をひとつにした功績によって、ということらしい。

 ブラッターは来年、FIFA会長として5期目を迎えることだろう。彼はもう78歳だが、欧米諸国は「生物学的な解決」を待っていないかもしれない。

 独裁者も年をとれば、その分だけ反対勢力につけ入るすきを与えてしまう。配下の者たちは、反乱を起こすべきか、もうしばらく保護を当てにすべきか、どちらが得かをはかりにかけるようになる。FIFAのケースがこれとは違うと考える理由はまったくない。

 ブラッターの後がまに誰が座ろうと、変わらないことはいくつかある。スポーツの倫理向上をめざすデンマークの団体「プレイ・ザ・ゲーム」の国際担当イェンス・サイア・アンデルセンは、FIFAが2022年のワールドカップをカタールで開くという決定を覆(くつがえ)すことはないとみている。イスラム教徒と非欧米諸国を敵に回したくないからだ。「再投票を行なえば、とんでもない結果になるだろう。そうなれば、FIFAは崩壊しかねない」

 1959年にアメリカは、キューバの独裁者フィデル・カストロを倒す計画に着手した。この計画はまだ実を結んでいない(フィデルの後継には弟のラウルが座った)。しかし、カストロ兄弟も永遠に君臨することはない。ブラッターもおそらく同じ......はずだ。
From The Financial Times © The Financial Times Limited 2014. All Rights Reserved.

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