ミラン番記者が分析。今季の本田圭佑はなぜ好調なのか (2ページ目)

  • クリスティアーノ・ルイウ●取材・文 text by Cristiano Ruiu 宮崎隆司●翻訳 translation by Miyazaki Takashi

■インザーギ監督就任とクラブの「普通化」
 悪夢のような2013-14シーズンが終わり、ブラジルW杯を経て、長い夏の移籍市場が再開されると、ミランの首脳たちはクラブの立て直しに全力を傾けた。しかし、ひと昔前とは事情が異なり、今のミランに大金はない。C・ロナウドやイブラヒモビッチといった超大物を引っ張ってくる財力などは望むべくもなく、したがって首脳陣が着手したのは体制の一新というより、"壊れた箇所の修復"だった。

 オーナー(ベルルスコーニ)の娘にして今年1月からミラン首脳のひとりとなったバルバラとGMガッリアーニが、表向きの和解を演じることで体制の一本化を内外に示し、その指揮下で監督を初めとする人事が進められた。そして、この修復の最大の成果が監督人事、つまりピッポ・インザーギの招聘である。

 たしかに、インザーギは指揮官としての経験は乏しいが、そこは屋台骨たるタソッティが補えばいい。第一に求められていたのが求心力、つまりバラバラになっていた選手達の気持ちを束ねることだった。その点で、インザーギの他に適任はいなかった。2年間、ミランの下部組織を率いていたため、現場からの信頼も厚い。

 そして、いざ監督人事が定まると次に行なわれたのが、いわゆるクラブの"普通化"である。資金力に乏しい今のミランでは、金のかかる"大物"の存在はかえってチームづくりの障害となる。そのため、普通のチームにするためにFWマリオ・バロテッリ(イタリア代表)が、プレミアリーグのリバプールへ放出された。代わって入ったのはMFボナベントゥーラという、「普通のクラブ」アタランタ出身の選手だ。これだけでも、今季のミランが意図するチームづくりの方針が鮮明に見えてくる。

 そして、この「普通化」は基本戦術にも変化をもたらしている。無謀なバルサ的スタイルの模倣ではなく、いわゆる堅守速攻を考え方の基本とする「4−3−3」に変わった。

 こうして本田は、自身のコンディションを取り戻しながら、昨季は皆無だった"平穏"を得て、普通のチームとなることで必然的に低くなった目標を掲げるシーズンに入り、無駄な喧噪にさいなまれることがない環境に身を置き、シンプルな仕事に専念できている。だからこそ本田は、本来のキレを取り戻しつつあると言える。欧州カップ戦もないため、体力的にも現在の好調を維持できる公算が大きい。

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