2020年オリンピック開催地が東京に決まった理由 (3ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 スタジアムを建設しても豊かになれるわけではないという事実に、世界のいたるところで人々が気づきはじめている。アメリカではこれまで数十年にもわたって、億万長者のクラブオーナーのためにスタジアムの建設費を税金から支出するかどうかを問う投票に、納税者が賛成票を投じていた。たとえばハリケーン・カトリーナに襲われる前のニューオーリンズでは、スーパードームのためには税金が使われていたが、堤防の整備に大々的に金が投じられることはなかった。

 IOC(国際オリンピック委員会)は、FIFA(国際サッカー連盟)がブラジルでやったように、納税者を怒らせたくなかった。2020年の夏季オリンピック開催地が東京に決まった理由のひとつはそこにある。東京は競争相手だったイスタンブールやマドリードよりも大会をうまく運営できそうだった(古くて貧しいリオデジャネイロよりは、はるかにうまくできるだろう)。

 UEFA(欧州サッカー連盟)は、さらに一歩先を行った。2020年の欧州選手権の開催国を選ばないことにしたのだ。UEFAの事務総長ジャンニ・インファンティーノは、現在の経済環境の下では大会開催の負担が大きすぎると説明している。この大会は13ヵ国の13都市で開かれることになっている。

 FIFAもブラジルでの経験から学ぶことがあるはずだ。無用の長物になるとわかっているスタジアムを民主国家に建設させるのは、デモをやってくれと言っているようなものだ。しかしロシアやカタールのように独裁的な国にワールドカップを与えれば、反対運動は抑えられる。

 ブラジル市民が行なったデモは、ワールドカップやオリンピックの将来を変えていくかもしれない。

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