経済効果はマイナス。W杯がブラジルにもたらしたもの

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 ワールドカップ期間中のブラジルには、予想を上回る約100万人の外国人が訪れたが、それでも経済成長にはつながらなかった。それも当然だろう。訪れた外国人のなかには、アルゼンチンやチリ、ウルグアイからほんの数日だけやって来た人たちがけっこういた。彼らにとってブラジルは物価が高いから、食料は持参して、車の中で寝て、シャワーはリオデジャネイロのビーチで浴びた。

 同じような期待はずれの傾向は、2010年のワールドカップ・南アフリカ大会でも見られた。あのときも政治家たちは、大きな経済効果があると言い立てた。しかし大会期間中に南アフリカを訪れた外国人は30万9000人にとどまり、2010年の月平均の半数にも満たなかった。大会期間中の南アフリカ経済は、4年後のブラジルと同じくマイナス成長だった。

 経済学者は、スポーツイベントを開いた場所がそうでない場所より経済的に成長しているという証拠を見つけていない。しかもスポーツイベントを開催することで、その土地の評判が上がるとはかぎらない。オリンピックでも、1972年のドイツ・ミュンヘン大会や96年のアメリカ・アトランタ大会など、テロに見舞われた例がある。今年のワールドカップを経ても、外国に映るブラジルのイメージは、「まともな交通インフラを持たない中進国」というものから変わることがなかった。

 ワールドカップのために建設された新しいインフラがブラジル経済を変えることもなかった。ブラジルはスタジアム建設に、当初の予算をはるかに超える80億レアル(約3600億円)を投じ、ほぼすべてが税金でまかなわれた。ブラジル政府の会計検査院は、今大会の公的支出は300億レアル(約1兆3500億円)にのぼると予測している。

「これだけの金があれば、貧困層を支援する『ボルサ・ファミリア・プログラム』を2年間は楽に運営できる」と、イギリスのフットボール史家デイビッド・ゴールドブラットは著書『フチボウの国──フットボールから見たブラジル史』に書いている。ゴールドブラットは今年の大会が「史上最も高くついたワールドカップ」だったと言う。
(続く)

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