経済効果はマイナス。W杯がブラジルにもたらしたもの

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 ブラジル市民がワールドカップと2016年のリオデジャネイロ五輪の開催に反対してデモを行なった理由のひとつは、こうした無駄遣いだった。「ワールドクラスのスタジアムは出来上がった。次に必要なのは、それらに見合う国だ」と、あるデモ参加者は横断幕に書いた。

 今、世界中で多くの人が同じ結論に達しようとしている。オリンピックやワールドカップといった巨大スポーツイベントを開催しても、そこに住む人々が幸せになるわけではない──。この見方がさらに広がれば、今後のオリンピックやワールドカップの開催地選びに影響が出てくるかもしれない。

 大きなスポーツイベントを開く国では、政治家たちがいつも経済効果を約束する。新しいインフラを造る工事が行なわれ、ショッピング好きの観光客が押し寄せる。開催都市はテレビに映るから、世界に向けた無料の宣伝になる......。

 2010年のワールドカップ・南アフリカ大会のとき、僕は当時ブラジルのスポーツ相を務めていたオルランド・シルバにヨハネスブルクで朝食をとりながら話を聞いた。「このワールドカップは南アのインフラ整備と発展の引き金になっていると思う。ブラジルも同じ道をたどるだろう」と、シルバは言った。

 残念ながらシルバは汚職スキャンダルが原因で翌年に辞任したが、いずれにしても彼の見方は間違っていた。大半の経済学者が、スポーツイベントの開催地にもたらされる経済効果は「無視できる程度のもの」と考えていると、ミシガン大学の経済学者ステファン・シマンスキーは言う。「しっかりした裏づけのある多くの論文が、むしろ逆の結論を示している。大きなスポーツイベントを開催するのは、経済面で負担になるということだ」

 確かにブラジル経済は今年の4~6月期(ワールドカップ開催期間の半分以上を含む)に、わずかだがマイナス成長となった。ブラジル政府は、大会期間中に交通渋滞を避ける目的で休日を増やしたことなどを要因にあげているが、いずれにしてもワールドカップが経済を刺激するという言い分は間違っていたことになる。

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