新代表監督アギーレがサポーターの心をつかんだひと言 (2ページ目)

  • 山本孔一●文 text by Yamamoto Koichi
  • photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

 取材を通して感じるのは、べらんめい調の口の悪さがたまに傷ではあるが、"人と近い監督"であるということだ。会見ではスラングが頻繁に飛び出すが、普段は落ち着いた人物である。世の中には車のハンドルを握ると性格が変わる人がいるが、アギーレはグラウンドに入ると性格が変わってしまう。きっとスラングまみれの会見は通訳を悩ませることだろう。

 テクニカルエリアに入るとチームの勝利しか考えられない。そのため、審判への抗議などで退席処分になることが多い。メキシコ代表を率いていた2009年のCONCACAFゴールドカップでは、対戦相手のパナマ代表選手がメキシコベンチ前のライン際を駆け上がった際に足をかけるなど、あり得ないこともしてしまった。

 このことに関してアギーレは「あれが自分のしたこととは信じたくないし恥ずかしい。ただ、青い芝の上にたつと気持ちをしっかりと制御できないことがある。物事をしっかりと考えてから行なおうとするが、つい気持ちが先走ってしまうことがあるのだ......」とMARCA紙のインタビューで自身の短所を認めている。

 歯に衣着せぬ物言い、変わることのない絶対的な信念、好き嫌いが分かれる直情型、それがハビエル・アギーレだ。だからこそ敵の数だけ、味方も多い。それを証明するエピソードがひとつある。

 エスパニョールの監督に就任した直後の試合、アウェーでのコルドバ戦(結果は0-0)は決してお世辞にもよい出来と言えるものではなかった。だが試合中、メキシコ人監督はテクニカルエリアで選手を鼓舞する指示を体全身を使ったパフォーマンスで行なった。そして試合終了の笛の音がなると、ベンチに戻る選手たちに「最高の試合をしてくれた。"このクソ野郎!"」と、スペイン語で最高の賞賛の言葉であるのと同時に放送禁止となるスラングで選手たちの労をねぎらったのだ。

2 / 3

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る