残り2試合で閉幕。ブラジルW杯は成功したと言えるのか (2ページ目)

  • 中山淳●文 text by Nakayama Atsushi photo by AFLO

 ただし、これらはあくまでもワールドカップという短いスパンで問題を捉(とら)えた場合の話だ。我々外国人からしてみれば、大会が終われば後は人ごとの話かもしれないが、当事者のブラジル国民としては、むしろワールドカップ閉幕後の行方に不安を感じているはずだ。

 中でも、今大会用に新設・改修された新スタジアムの数々がブラジル国民の大きな負債となってしまったことは、目の前にある大きな問題として捉えられている。国民の熱狂と興奮を生み出した舞台が、わずか1カ月ほどで自分たちの生活の負担に変わってしまうのだから、何とも皮肉な話である。

 現地サンパウロの新聞報道によると、今回のワールドカップで使用した12のスタジアムの総工費は約71億レアル(約3260億円)とされ、そのうち銀行や地域開発基金から借り入れた負債総額は、その6割にもおよぶ約43億レアル(約1970億円)。この負債額を12~13年かけて返済した場合の利息は、実に約24億レアル(約1100億円)に上るという。

 各スタジアム建設費とそのための借り入れは、それぞれの自治体(州)をはじめ、クラブや民間企業の責任で行なわれているため、少なくとも、自治体の借金については国民(市民)が税金として直接負担することは間違いないだろう。しかも、連邦直轄区の資金だけで建設されたというブラジリアのスタジアムは別としても、マナウス、ナタール、クイアバなど、地元に集客力のあるクラブが存在しないスタジアムなどは、借金返済に加えて莫大な維持費がかさむにもかかわらず、今後の使い道や資金回収方法さえ目途が立っていないのが現状だ。

 また、問題はスタジアムだけにとどまらず、道路、橋、鉄道、空港など、国民の血税によって実行されたインフラ整備についても、ワールドカップの大きな負の遺産となって、さらに国民に重くのしかかってくることは間違いなさそうだ。しかも、当初予定されていた公共事業のうち、実際に完了したのは全体の約半分とされ、残りの半分についてはまだ工事の途中段階なのである。

 例えば、クイアバの街に計画された鉄道建設は、開幕を迎えた段階でも一部しか完成されていないというのが実情だ。実際に現地を訪れた際も、空港から市内までの大きな道路の中央には、鉄道建設のための土地が空地状態として放置されていたのを確認できた。これは、サルバドールの地下鉄工事についても同じことが言える。

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