負傷したネイマールにスニガが謝罪しない理由 (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by JMPA

「俺はネイマールを傷つけようとしたわけではないんだ。自分は代表のユニフォームと国を背負い、守るために戦っているだけ。ネイマールが神のご加護のおかげで、早く回復することを願っている」

 スニガのコメントは正直、日本人には理解しにくいだろう。理屈としては正しいのだろうが、自己正当化がどうしても醜く見える。なにしろ、相手の見えない後ろから腰のあたりに膝蹴りをし、それによって腰椎を骨折させ、選手に涙を流させ、自国開催のW杯を奪ってしまったのだ。

"まずは詫びるべきだろう"というのが筆者の率直な感覚で、多くの日本人の考え方ではないだろうか。

 しかしコロンビア人にとっては、それどころではない。国内メディアはスニガの反則行為についてはそっちのけ。暴力的場面を誘発し、いくつかの不利な判定を下したスペイン人主審を猛烈に攻撃している。

 ある新聞は、「偉大なる売春婦が生んだ息子」と、スペイン語圏で放送禁止用語になっている表現まで用いた。「1試合で60回近くもファウルがあった試合が異常だった」というのが、彼らコロンビア人たちの主張なのだろう。事実、選手の行動は試合のテンションによっても変化する。だからスニガだけが悪いわけではないのだろうが、どうも釈然としない。

 ブラジルW杯では、思った以上に重い処分が下された反則もあった。いわゆる"かみつき事件"を起こしたウルグアイのルイス・スアレスは、代表戦9試合とクラブ等の試合4ヵ月出場停止、ブラジルからの即刻退去など、フットボールに関わる活動を禁じられている。

 確かに信じられない行為ではあった。しかし身体的ダメージだけを考えれば、かみつきは"軽度のファウル"だ。かみつかれたイタリアのキエッリーニは特別な治療を受けたわけではないし、被害者本人が「過剰な厳罰」と苦言を呈している。ルイス・スアレスは相手を再起不能にしたわけではなく、愚かしくはあっても、攻撃本能が行き過ぎてしまっただけのことだ。

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