2014.07.03

オチョア、ブラーボ、ハワード…。W杯を盛り上げる名GKたち

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by Getty Images

 カニサレスも、どこか狂気を孕(はら)んでいた。ゴールネットに赤いタオルを掛けるのが彼のまじない(げん担ぎ)だったが、ある日、それが紛失してしまうと、まるで迷子の子供のようにうろたえた。カニサレスはプレイボーイとして有名で、軽妙な振る舞いが売りだったが、ゴール前では常に何かに祈っていたのだろう。

 ブラジルW杯ではメキシコのGKオチョアがブラジル戦で引き分ける立役者となり、注目を浴びた。オチョアは果敢な飛び出しでシュートを体に当て、見事にブロック。簡単に見えるかもしれないが、相当な恐怖を伴う。もし振った足が当たれば、大ケガをしてもおかしくない。そもそも人間は衝突する瞬間、目をつむってしまったり、躊躇(ためら)いが生まれるものだ。

 しかし一流のGKは、ぶつかってケガを負うことを回避しようとするような本能を、一時的にオフにしてしまう。彼らは、狂気に似た度胸と覚悟でシュートに立ち塞がる。

 バルセロナ入団が決まっているチリのGKクラウディオ・ブラーボはスペイン戦、ブラジル戦と飛び出すときには躊躇いがなかった。空中戦でも大男たちの間をすり抜け、一番高い地点でボールを捕らえていた。その勘の良さは圧巻。1対1で相手の足下に飛び込むのも苦にしない。

 アメリカのハワードも、ベルギーが120分間で放った38本ものシュートに敢然と立ち塞がった。その堅守は、感動に値した。チームが敗退しながらも、彼がマン・オブ・ザ・マッチに選ばれたのは、その証だ。

 ベスト8に躍進しているコスタリカのGKケイラー・ナバスも、レアル・マドリードが食指を動かしていると言われ、そのゴールキーピングは世界指折りと言える。ナバスは一瞬たりとも、ボールとキッカーから目を離さない。だからこそ、ぎりぎりの反応でビッグセーブができるのだろう。

 生身の体を晒しながら、ゴールキーパーたちはシューターと駆け引きしている。そこに彼らの矜恃(きょうじ)はある。