攻撃サッカーを放棄?オランダは変わってしまったのか (2ページ目)

  • 中山淳●文 text by Nakayama Atsushi photo by AFLO

 魅せるサッカーから、勝つためのサッカーへ――。
 理想主義から、現実主義へ――。

 攻撃サッカーを信奉するオランダ人らしからぬ選択肢ではあるが、確かに現実として無傷の3連勝で決勝トーナメントに進出したのだから、ここまでは大成功と言うしかない。

 しかもこの試合は、負ければ決勝トーナメント1回戦でブラジルと対戦する可能性が高いと見られていたため、同じ勝ち点ながら得失点差でチリを上回るオランダとしては、最低でもこの試合に引き分けて確実に首位通過を果たす必要があった。それも、5バックを採用した理由のひとつだと思われる。

 オランダのシステムは5-2-1-2。この試合はロビン・ファン・ペルシーが出場停止だったため、アリエン・ロッベンと2トップを組んだのはイェレマイン・レンス。しかしポイントになっていたのは、左サイドバックの位置にFWのディルク・カイトが入っていたことだった。

「初めてのポジションだけど、大会前の準備キャンプでその可能性があると言われていたので、準備はできていた」とは、試合後のカイトのコメントだが、元々ウイングを主戦場とする彼がサイドに入ることによって、完全な5バックになりにくいという特徴もあった。実際、カイトはやや高めのポジションをとることが多く、チリの右サイドMFマウリシオ・イスラの攻撃参加に蓋をする役割を果たしていた。

 結局、試合は勝利を目指すチリが攻撃的に出て、オランダがそれをいなしながらカウンターを狙うという図式で展開。ほぼオランダの思惑通りに時間が経過すると、後半77分のコーナーキックから、最後はMFレロイ・フェルが頭で合わせて先制。さらにアディショナルタイムには狙い通りのカウンターで、ロッベンのクロスをFWメンフィス・デパイが押し込んで勝負あり。オランダがチリに付け入る隙を与えることなく、確実に勝利をものにしたのである。

 ボール支配率は、オランダの36%対チリの64%だ。

 かつて、ピッチを広く使ったボール・サーキュレーション(ポゼッション)を重視し、攻撃的サッカーを哲学としていたファン・ハールにとって、この手のスタイルで勝つことに抵抗はないのだろうか――。そんな疑問を持つ人もいることだろう。しかし、ファン・ハールはそんな疑問にこう答える。

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