最小エネルギーで2ゴール。メッシの不調は確信犯?

  • 中山淳●文 text by Nakayama Atsushi photo by AFLO

 しかもほとんどの時間は、歩いているかジョギング程度で、スプリントの回数は異常に少ない。勤勉をモットーとする日本人からすると、絶対にあり得ないプレイぶりだ。

 当然、2~3割のエネルギーしか使っていないので、パフォーマンスそのものも悪い。スピードやキレといったフィジカル的な部分も低いうえ、ドリブルやキックといったテクニックもそれに伴って鋭さを欠いていた。トップフォームのメッシと比べれば、怖さは明らかに半減した状態にある。

 また、メッシに影響されたわけではないだろうが、アルゼンチンのチーム全体の出来も良くなかった。この試合でFWゴンサロ・イグアインがスタメンに復帰したものの、彼もまたトップフォームとはほど遠い出来。さらにもうひとりのFW、セルヒオ・アグエロも期待通りのプレイはまだ出来ていない。メッシとともに「超強力3トップ」と目されていたチーム最大の売りは、今は開店休業状態だ。

 唯一、シーズンの好調をキープしているのが、左の中盤でプレイするアンヘル・ディ・マリアなのだが、いかんせん、引いて守るイラン守備陣を相手にひとりで打開するには厳しすぎた。孤軍奮闘と言いたいところだが、周りが周りだけに、どこか孤立感さえ漂わせていた。

 ところが、そんな悪い流れのゲームの中でも、結局は最後の最後でメッシが試合を決めた。前半32分と後半14分に一度ずつ、それぞれ好調時ならネットを揺らしていたかもしれないシュートシーンはあったが、それ以外、この日のメッシからはほとんどゴールの匂いを感じることができなかった。それにもかかわらず、メッシは初戦と同じように(ボスニア・ヘルツェゴビナ戦で1ゴール)、最小限のエネルギーで大きな仕事をやってのけたわけだ。

 つまりここで、今大会のメッシについて、「賛否の賛」が浮上してくるのである。

 まずひとつは、W杯優勝を狙うアルゼンチンにとって、格下が並ぶ恵まれたグループF(イラン、ナイジェリア、ボスニア・ヘルツェゴビナ)をベストコンディションで戦う必要があるのか----という部分だ。決勝戦はまだ2週間以上も先の話なわけで、グループリーグをフルパワーで戦っているようでは危ういと見るのが、強豪国の常識でもある。よって、メッシのコンディションも、順当に行けば準々決勝あたりから上がってくると予想するのが妥当だろう。

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