ネイマールはブラジルの何かを変えることができるか (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by JMPA

「ブラジル人のコラソン(ハート)にはフッチボールがある。セレソンには優勝して欲しい。情熱はあるんだ」

 セルジオさんはどうにか折り合いをつけるかのようだった。

 午後1時32分。スタジアムの目の前にある地下鉄駅に到着する。メディアバスを使う選択肢もあったが、道路は渋滞が深刻でのろのろと進まず、地下鉄を使う選択をした。メディアバスの関係者までが、「バスの半分以下の時間で行けるわよ。地下鉄を使うべきね」と勧めてきたからだ。3レアル(約150円)で市内は乗り放題。「地下鉄は危ない」という印象は強かったが、危険な匂いはしなかった。

 治安は悪いが、同時に「ブラジル人は外国から来た人間をおもてなしする気持ちがある」とつくづく思う。道ばたできょろきょろしていると声をかけてくれることが1日目で2度、3度。夜中にタクシー待ちで話しかけられると、なんか魂胆があるのでは、と警戒する自分が浅ましく思えた。彼らはW杯などなくとも、人に寛大なのだろう。

 ただ、"良心"は問題に蓋をすることもある。なあなあの工事建設は遅々として進まず、作りかけのままでブラジル対クロアチア戦を迎えてしまった。そんなW杯スタジアムは、国として恥ずかしい。オープニングセレモニーは音響が酷かったし、細かな仕掛けもない。それもブラジル人の現実だ。

 午後7時11分。

「負けられない」

 王国の期待を受けるネイマールは、その重圧を愉しめるのか。もしそれができるなら、彼は英雄になる――そんなことを考えていたら、ネイマールは痺れるようなゴールを決めた。リードを許した展開、一人でボールを運ぶと、利き足ではない左足でDFの股を通して逆サイドのポスト内側に放り込んだ。また、逆転のPKも迷いなく力強かった。主役になれる人間は限られているが、彼はその星の下に生まれたのだろう。

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