CLレアル優勝。だが従来ないサッカーを見せたのは敗者だった

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

 逃げ切れるか否か。微妙な情勢だった。圧倒的な個人技が光り始めたレアル。だが、アトレティコはそれによって守備陣がパニックに襲われることはない。組織が崩れることはなかった。

 結果的に言えば、引くのが早すぎたとなる。少なくとも、アトレティコの良さは消えた。良いタイミングでボールを奪い、相手が混乱する中で繰り出す、ひねりの利いたパスワークは見られなくなった。好チーム度は減退していった。

 ロスタイムは5分。こちらの予想より1~2分長かった。同点ゴールが生まれたのは後半48分。アトレティコに逃げ切りのムードが漂い始めた時だった。

 MFモドリッチの蹴った右CKに、レアルは5人、6人がタイミングをずらしながら、ゴール前に殺到する。アトレティコの守備に乱れはないように見えた。飛び込んでくる全員に、キチンと対峙できているように見えた。

 だが、最後の1人が空いていた。DFセルヒオ・ラモスの姿を確認した瞬間、やっぱりこの選手かと、咄嗟に思った。レアルで最も勝負根性がある男。セットプレイに強い男。ヘディングの当たりが強い男。選手として最盛期を迎えている男。スター選手ひしめくレアルにあって、1番に、2番、3番に来る名前ではない。地味というわけではないけれど、スポットが当たりにくい選手。もっと評価されていい選手が、土壇場で存在感を発揮した。マーカーであるMFティアゴを50センチほど振り切り、強いヘディングをゴール左サイドに叩き付けた。

 延長戦。アトレティコは戦い方を本来のサッカーに戻そうと試みた。しかし、相手は眠りから覚めてしまっていた。弱気になったのだろう。アトレティコの選手は、その一方で時間をゆっくり使おうとした。最悪PK戦でもオッケーという気配を見せていた。彼らはすっかり弱者になっていた。

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